第47話

その後、忍坂姫おしさかのひめは桜見物の会場となる場へ移動する事になった。


忍坂姫は瑞歯別大王みずはわけのおおきみの後ろを歩きながら、彼の事をじっと見ていた。

こんな綺麗な男性を、彼女自身もいまだかつて見た事がなかった。


そんな彼女の横に雄朝津間皇子おあさづまのおうじがやってきた。


「忍坂姫、一応言っておくけど、大王は今の妃以外全く興味もってないからね」


それは彼女も流石に知っていた。だから息長でも瑞歯別大王は噂になっていた。


「えぇ、その噂は前々から聞いてました。あんなに素敵な方なのに、たった1人の女性を一途な思うなんて、なんて素晴らしいんでしょう」


忍坂姫はそんな瑞歯別大王にすっかり魅了されてしまった。そこは雄朝津間皇子にも是非とも見習って貰いたいものだ。


「はぁ、そうだね……」


雄朝津間皇子は怒るわけでもなく、少し脱力したような感じである。

自分の兄が誉められてはいるが、特に何とも思わないのだろう。


「だからお父様も、私の婚姻相手に始め一瞬だけ今の大王をとも考えたみたいです。私なら后にもなれるからと。でも直ぐにその事は諦めたと言ってました」


それを聞いた雄朝津間皇子は、呆れた感じで言った。


「君が大王の后……それは流石に無謀すぎる」


忍坂姫も彼にあっさりそう言われて、頭では分かっていても、何故か虚しく思えてくる。


「勿論分かっています。私にはどう見ても不似合いですから。

でも出来るなら私も大王の妃のように、自分だけを一途に思ってくれる男性と一緒になりたいものだわ」


(これを雄朝津間皇子に求めても、流石に無理な話しね)


忍坂姫は少し肩を落とした。そんな淡い期待なんて持っても無謀だと。

力のある男性が複数の女性を妻にするのは、この時代当たり前の事だ。

それに自分はどこかの村娘ではなく皇女だ。余計に自分の希望なんて通るはずもない。


「ふーん、君でもそう言う相手が良いって思うんだ?」


雄朝津間皇子は意外そうな感じで言った。


「まぁ、出来ればですけどね。でも実際そんな男性は、そうそういないでしょうし。現に雄朝津間皇子がそうじゃないですか」


彼女は思った。そんな男性が普通に横にいるのだから、これが現実なんだと。


「まぁ、そう言われると否定出来ないけどね」


雄朝津間皇子も、何とも無反応な感じで答えた。

実際に彼は今まで特定の相手は作らず、割り切った関係で女性と接してきた。

彼的に、別にそれが変とは今まで特に思ってはいなかった。

むしろ今の大王が珍しいだけだと。


忍坂姫は思わず「はぁー」とため息を付いた。


雄朝津間皇子は、そんな忍坂姫を横から見ていた。そして彼は少し複雑そうな表情をしていた。


(もし奇跡的に、そんな男が彼女の前に現れたら、彼女はその男を選ぶのだろうか……)


また、市辺皇子は久々に大王に会ったので、大王の横を歩いていた。

大王自身も市辺皇子の事はどうも気にかけているようだった。

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