第42話

「はい、大王も雄朝津間皇子おあさづまのおうじの戻りに合わせてお越しになるそうです。受け入れに関しても、今この宮にいるもの達で対応は出来ると思います」


伊代乃いよのにそう言われて、忍坂姫おしさかのひめは安心した。でも桜を見にわざわざ来られるとは、大王も何とも面白い人だなと彼女は思った。


(瑞歯別大王みずはわけのおおきみと言えば、昔しは残忍な人と噂されてる時期もあったそうだけど、今はとても温厚な方と聞いているわ。

それにとても綺麗で凛々しく、とても人気があると息長でも噂されていた)


そんな瑞歯別大王に初めて会えると言う事で、忍坂姫も何だかとても楽しみになってきた。


(元々この宮での1ヶ月の滞在を提案したのは大王だったし、そのお礼も一応は言わないとね)


忍坂姫が伊代乃と丁度そんな会話をしていると、どうやら市辺皇子いちのへのおうじが宮に戻ってきたようだ。


「あれ、忍坂姫なに話してるの?」


市辺皇子は忍坂姫を見つけると、彼女の元にトコトコと走ってきた。

そしてそんな市辺皇子を忍坂姫は優しく受け止めた。


「市辺皇子、お帰りなさい。実ね、今度大王がこっちに来る事になったそうよ」


忍坂姫は市辺皇子の頭を撫でながら彼に言った。市辺皇子からすれば、今の大王は雄朝津間皇子同様に叔父に当たる人だ。


ちなみに忍坂姫から見れば、大王は雄朝津間皇子同様に従兄弟同士の関係になる。


「えぇ~大王が来るの?」


市辺皇子も急な大王の訪問に、ちょっと驚いているみたいだ。


「何でも、皆で桜を見に行くそうよ。市辺皇子も一緒に見に行く?」


それを聞いた市辺皇子は凄く嬉しそうにした。どうも宮の外に出掛けるのは割りと好きみたいだ。


「わぁーい。僕も行く!行く!」


市辺皇子はその場で、急に彼女の周りをグルグルと回って凄い喜んだ。


昨日の雄朝津間皇子との事で落ち込んでいた忍坂姫だったが、少し元気が出てきた。

それに桜の件も、市辺皇子が側にいるならそれなりに楽しめそうだと思った。


「じゃあ、そうしましょう。それと皇子も戻って来た事だし、軽く菓子でも食べようと思うの。伊代乃準備してもらって良いかしら」


市辺皇子も丁度お腹が空いてきたみたいで、早く早くとせがんだ。


そんな市辺皇子を見て、伊代乃も少しクスクスと笑った。


「分かりました。ではこれから急いで準備しますね」


それから忍坂姫は、市辺皇子の手をつないで部屋の方へと向かった。


(雄朝津間皇子とはまだ気まずいままだから、何とか様子を見て仲直り出来ると良いんだけど。でも皇子まだ怒ってるでしょうね)


忍坂姫はそんな不安を抱えながら、大王の訪問を待つ事にした。

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