第43話

そして今日は、大王が訪問に来る前日で、今は夜に差し掛かる時間帯だった。


「そう言えば、そろそろ雄朝津間皇子おあさづまのおうじが戻って来てる頃かしら。この分だと先日のいざこざが解決しないまま、明日出掛ける事になりそうね」


忍坂姫おしさかのひめがふとそんな事を考えている時だった。なにやら誰かの足音が聞こえてくる。


どうやらこの部屋に誰かが向かって来ているようだ。


(誰かしら、こんな時間に?)


そして彼女の部屋の前で、ふと足音が止まった。


「忍坂姫、俺だ。中に入って良いかな」


その声を聞いて、彼女は思わずぎょっとした。その声の主は何と雄朝津間皇子だった。


(まさか雄朝津間皇子の方からやって来るなんて……)


忍坂姫は突然の皇子の訪問にかなり動揺した。だが流石にこのまま無言を続ける訳にもいかず、彼の返事に答えた。


「は、はい。大丈夫です」


忍坂姫の返事を聞いて、雄朝津間皇子はそのまま部屋の中に入ってきた。

雄朝津間皇子は、意外にも普段と変わらない感じの表情であった。


そして彼女の前まで来ると、その場に座った。


忍坂姫は彼にどう対応したら良いか分からず、中々上手く彼と目を合わせられずにいた。


(一体何で、こんな時間に来たんだろう)


「今丁度宮に戻って来たところ。何でも明日大王がこっちに来るんだってね」


忍坂姫はとりあえずコクコクと頷いた。

今宮に戻って来たと言う事は、その足でそのまま自分の部屋に来たと言う事だろうか。


そんな忍坂姫を見て、雄朝津間皇子は思わずため息をついた。


「何か俺、かなり警戒されてるみたいだね。まぁ無理もないかもしれないけど……」


忍坂姫はふと雄朝津間皇子の顔を見た。すると彼は真っ直ぐ自分の事を見つめていた。


「皇子、どうもお帰りなさい。こんな時間に何か用ですか?」


忍坂姫は、とりあえずそれだけ彼に返事をした。


それを聞いた雄朝津間皇子は少し優しげな表情を見せた。

どうもいつもの皇子とは少し感じが違っていて、どうしたら良いのか彼女は分からないでいた。


「先日あんな事になって、本当はもっと早く謝りたかった。でもすぐに出掛けないと行けなかったら、こんなタイミングになってしまった。本当にあの時は済まなかった」


そう言って雄朝津間皇子は彼女の前で頭を下げた。


(え、皇子が私に頭を下げるなんて……)


そんな彼を見て、忍坂姫は慌てて言った。


「雄朝津間皇子!そんな皇子が頭なんてさげないで下さい。あの時は私も流石に言い過ぎました」


忍坂姫にそう言われ、雄朝津間皇子は頭を上げた。彼女の発言に少し驚いてる感じだった。


「いや、元々の原因は俺にあるよ。あんなふうにして君を傷付けてしまって。でも今の君の発言だと、俺の事を許してくれるのか?」


許すも何も、どうやって皇子と仲直りしようかと思っていた所だった。

それがまさか皇子の方から謝ってくるとは思ってもみなかった。

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