第24話

「そんな風に言ってもらえて、本当に嬉しいです。こちらこそ宜しくお願いします」


伊代乃いよのは少し照れたような感じで答えた。そんな彼女を見ると、彼女も年相応の女の子に思えてくる。



その後、忍坂姫おしさかのひめは運ばれてきた食事を頂く事にした。


そして食事をしながら、忍坂姫はふと伊代乃に声を掛けた。


「そう言えば、雄朝津間皇子おあさづまのおうじは今どうされてるの?ご自身の部屋で食事でもされてるのかしら」


とりあえず雄朝津間皇子の普段の生活が、どのようなものか聞いておこうと思った。


「雄朝津間皇子は今日は朝早くに起きられて、周りの村を見に行かれてます。この宮の管理は皇子がされてますが、それ以外の時は外に出られてる事も多いですね」


彼女の話だと、雄朝津間皇子は表だって国の政り事には余り携わっておらず、裏での細々した事に動いているらしい。

昨日の盗賊に関しても、周りの村人達から話しがあった為、それで退治に行っていたようだ。


「へぇー、意外に忙しくされてるのね」


忍坂姫は汁物をすすりながら言った。


「えぇ、でも周りの村の人達からの評判はとても良いですよ。先日も盗賊を無事退治されたので、村の村長からお呼ばれがあり、その日は村長の家に泊まられたそうです」


(なる程、だから先日は会う事が出来なかったのね)


「きっと食べ物や、お酒が沢山振る舞われて、帰れなくなったんでしょうね」


忍坂姫は彼女の話しを黙々と聞きながら食事をすすめていた。


「まぁ、あそこの村長の家には時々通ってられましたからね。そこの村長の娘がたいそう綺麗なんだそうで……」


それを聞いた忍坂姫は一瞬食事が止まった。


そんな彼女を見た伊代乃は一瞬「しまった!」と思った。こんな話しを忍坂姫の前でするべきでは無かった。


「つまり、先日もその家の娘に手を出していたと言う事?」


こっちからわざわざこの宮に出向いたと言うのに、皇子本人はその村長の娘と戯れていたと言うのだ。

そう思うと、忍坂姫はふるふると怒りが込み上げて来た。一体どこまで人を馬鹿にするつもりなのだろう。


「忍坂姫様が先日から来られてますので、さすがにこの1ヶ月の間は、どこかの娘の元に通う事はなさらないと思います」


伊代乃は慌てて彼女にそう言った。

つまり雄朝津間皇子はこれまでも、複数の娘の元に通っていたのだろう。


「べ、別に、男性が特定の娘の元に通うのなんて普通でしょう。そんな事気にしてないわ」


忍坂姫はそうは言ってみたものの、やはりこの事については結構ショックを受けた。


(はぁー先が思いやられるわ……)


こんな話しを聞いてしまうと、もう食事をする気が失せてしまった。

とは言ってもある程度は既に食べ終えてはいたが。


「伊代乃、悪いけど食事はもう良いわ」


そう言って、伊代乃に食事を片づけてもらうようお願いした。


それを聞いた伊代乃も、慌てて彼女の食べかけの食事を下げた。


(それと今日は衣奈津いなつ達が帰るはずだわ。見送りだけしておこう)


それから忍坂姫は衣奈津達の見送り為、部屋を後にした。

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