第16話

「本当に、お父様もお母様も、私が何か問題でもおこしそうな感じに思ってるのね」


忍坂姫おしさかのひめは少し不満気味に思いながら、宮までの道のりを歩いていた。

今は丁度お昼を過ぎている頃に差し掛かっていた。


「まぁ、お二人とも姫様がそれだけ心配なんですよ。それに今日は天候にも恵まれて本当に良かったですね」


衣奈津いなつが忍坂姫にそう言った。


道の横では小さな川が流れていて、基本はこの川に沿って進む形になる。

もうすぐ春なので、川沿いには少し花も咲いていた。


「まぁ、それはそうなんだけど……」


とりあえず、そんな事をいちいち気にしていても仕方ない。久々に宮から離れて歩いてるのだ。これはこれで楽しもうと思った。


「こんな天気の良い日には、舞でも踊りたいものね。雄朝津間皇子おあさづまのおうじの宮に着いたら舞ってみようかしら」


忍坂姫の唯一の特技が舞で、これは幼少の時からずっとやっており、この舞だけは両親からも誉められていた。


「姫様、それは良いですね。雄朝津間皇子も姫様の舞を見られたらきっと喜ばれますよ」


それを聞いた衣奈津も嬉しそうに言った。

もうじき来る春と共に、忍坂姫の舞は見る人を魅了するだろう。




そしてまたしばらく歩いていると、道が細くなりなり、太陽が雲に隠れ少し薄暗くなってきた。

皇子の宮までの道のりは、あと半分ぐらいの距離だった。


(何か変な感じね。早いところ皇子の宮に行かないと)


忍坂姫が変な胸騒ぎをし出した丁度その時である。

忍坂姫一行以外に人の気配はそれまで無かったが、何か足音が聞こえて来た。

しかも速足で何かが近づいて来る感じがした。


「姫様、何か足音が聞こえて来ませんか?」


衣奈津は辺りを見回した。

また他の従事者の男2人も辺りをキョロキョロ見ている。


(やっぱり、誰か来てる?)


忍坂姫がそう思った瞬間、彼女達の前に、2人の男が現れた。

男は武器を持っており、どうやら盗賊のようだ。


「あんた達、随分と身なりの良い服装だな。何か金目のものとか持ってるんだろう」


男の1人がギラギラした目で言った。どうやらこの辺りを通る人を待ち伏せしていたようだ。


忍坂姫の従事者が思わず彼女の前に出た。


「姫様は後ろに下がってて下さい」


忍坂姫は従事者の男にそう言われて、思わず後ろに下がった。衣奈津も忍坂姫を守るように、彼女を抱きしめている。


するともう一人の盗賊の男が話し掛けてきた。


「どうせ、剣もそんなに使える訳でもないんだろう。逃げられても何かと面倒だ、さっさと殺そうぜ。それから持ち物を確認すれば良い」


それを聞いた忍坂姫は一気に血の気が引いた。この状況を考えると、自分達の方が断然不利だ。

距離が短いから大丈夫だと思ったその考えが甘かった。

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