第38話

そして次の日。

嵯多彦さたひこは若宮の中を見て回っていた。どうやら供に連れてきた者達とは別行動らしい。


ただ瑞歯別皇子みずはわけのおうじも少し怪しんでいた為、嵯多彦達を見張るように家臣に指示を出していた。


嵯多彦が歩いていると、また偶然佐由良に会った。

佐由良は嵯多彦から声を掛けられるも、昨日の瑞歯別皇子との事があったので、軽く会釈だけしてその場から逃げ出してしまった。


(とりあえず、あの人とは話しをしないようにしないと)


しばらく走ってから彼女は立ち止まった。


「まぁ、あと数日だけだしね」


「何が数日だって」


(え?)


彼女が思わず振り替えると、そこには嵯多彦が立っていた。どうやら佐由良を追いかけて来たみたいだ。


「えーと、ごめんなさい。昨日あなたとの事で皇子から怒られてしまい。それでつい逃げてしまって」


「皇子に怒られた?」


(一体どう言う事だ……)


「はい、私は失礼な事はしてないと思うのですが、何故か皇子が酷くご立腹されてまして」


(ふーん、なる程。自分がこの娘を誉めたのが気に食わなかったのか)


「あなたは何も悪くない。多分私の言い方に問題があっただけだから。皇子がただ疎いだけの事なので」


(あの皇子、恐らくまだ気付いてないんだな……これは何とも面白い話だ)


「皇子が疎い?」


「あぁ、それはこちらの話し。とりあえずあなたが気にする事ではないですよ。皇子には私からも言っておくので安心して下さい」


「ほ、本当ですか。有り難うございます」


佐由良はそれを聞いて少し気持ちが楽になった。


(確かにこの娘、本当にちょっと欲しくなる)


「佐由良そこで何をしている」


佐由良は見張りの男性に呼ばれた。

どうやら瑞歯別皇子の命令で、嵯多彦を見張っている男のようだ。


「す、すみません」


佐由良は急いでその男に謝った。


(こんな所で道草でもされていると思われたら、叱られるかもしれない……)


「では、私はこれで失礼します」


そう嵯多彦に言ってその場を離れた。


(なる程、何となくそうかなと思っていたが、やはり俺を見張っているのか。あの皇子らしいな)


そして嵯多彦もまた歩き出した。

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