第36話
「いや、本当に申し訳ない。皇子がそれ程慎重なお方とは知りませんでした。
ただ先程の娘が余りに綺麗だったので、少し興味を持ったもので。まぁ、この話しは忘れて下さい」
(佐由良に興味を持っただと。何を言ってるんだ。仮にも釆女としてこの宮にやって来た娘だぞ)
「それで今回来られたご用件は」
「はい、ここ最近は前大王の崩御や、兄上様の謀反など、色々大変な事が続いたと伺っております。
そのお慰めと、葛城としましても今後も長くお付き合い頂きたいと思いまして。
あと個人的事ではありますが、
「そうですか。それはわざわざご配慮頂き有り難うございます。それでこれからどうなさるおつもりですか」
「はい、もしお許し頂ければ、数日ここにいさせて頂きたいと思います」
それを聞いた瑞歯別皇子は、葛城からの訪問者をぞんざいに扱うのも失礼だと思い、それは構わないと思った。
「それは構いません。是非ゆっくりしていって下さい。
大王の元にはその後行かれるのですか」
「いえ、その後は一旦葛城に帰りまして、大王の元にはまた改めて伺わせて頂きます」
(何、兄上の所には行かないだと。何ともおかしな話しだな……)
「そうですか。まぁ、今回はここに来て頂けただけでも有り難い。存分に休んでいかれて下さい。
では、私はこれで一旦失礼します」
「はい、わざわざご配慮頂き感謝します」
そうして瑞歯別皇は供を連れて、部屋を出ていった。
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