第60話
3
飛行機に乗るのは人生で初めてだった。
もちろん、親には例の嘘をついて黙ってきたわけだけれど、まさか初めての空の旅が、最初で最後になるとは少し前までは思いもしなかった。
朝一の飛行機に乗り込んで、石垣島には午前九時すぎには到着できる予定だった。
初めての飛行機に興奮しつつ、同時に万が一墜落したらと考えずにはいられなかった。
飛行機に慣れていればいちいちこんな風には思わないのだろうが、これはもう飛行機初体験者の宿命だと思う。
自殺するつもりだとはいえ、墜落の恐怖なんて味わいたくはない。
飛び降り自殺を考えていながら少し矛盾しているような気もするけれど、怖いものは怖い。
隣にカナメがいてくれたおかげで多少気を紛らわせることは出来たけれど、離陸の瞬間は足が少し震えていた。
鼓膜がグッと押されて音が遠くなる。
そして窓の外に広がる街並みがどんどんと小さくなっていくごとに、この飛行機が今にも傾くんじゃないかと固唾を飲んで身構えていた。
ふと小さな窓の外に霧が出てきたと思い目を凝らしてみて、それが雲だとわかった時は衝撃的な感動を覚えた。
真っ青な空の下一面に広がるそれは、まるで誰も足を踏み入れていない雪景色のようで、共有しようとカナメの肩を叩いたけれど、彼は夢の中だった。
石垣島までの三時間、私は飽きることもなく、窓の外を眺めていた。
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