第59話

「大丈夫。月島さんにもいつか素敵な彼が出来る日がやってくるから」




ホームに入ってきた電車にスカートを揺らしながら、リカちゃんがニコリと微笑む。



「そうだ、月島さんにこれ渡しておく」




小ぶりなバッグから小さなメモ用紙を取り出し、手早く何かを記入するとそれを私の手に握らせた。


開いてみるとそこには11桁の数字が並んでいた。




「それ、私の番号だから。あまり深く考えずいつでもかけてきてね」




相変わらずリカちゃんは心配性だ。



散々お世話になった私が言うのも何だが、生徒に対していちいちそんな風に入れ込んでいたら先が思い遣られる。



もし、私が死んだら彼女はどう思うだろうか、と一瞬頭に過ぎったが、それ以上は考えないように断ち切った。






閉まるドアの先で、ホームに佇み笑顔で手を振ってくれる彼女に、


私は小さくサヨナラを呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る