第54話

「困っている人がいたら助けなさい、


手を差し伸べなさいって教わってきて、


保健教師になったばかりの頃は困っている生徒がいたら私が救うんだって意気込んでた。



でもね、私いまだに何にも出来てないの。



それどころか善意で差し伸べたつもりの手で、誰かを傷つけたり、傷付いたり。



それで痛感したのよ。



私は自分に自己過信してたんだって」





溜め込んでいたものを吐き出すように、息をつく。


リカちゃんがそんな風にため息をつくのを私は初めて見た。




「人って手は二つしかないのよね。


守れるものの数にも限界がある。



だから後先も考えず、その場の意思だけで中途半端に差し出した手は、いつか相手を傷つける凶器にもなり得るんだって。




だから大切なものを選ぶってすごく大事で。



だからもし自分がもうすぐ死ぬなら大切なものを選んで、せめてそれだけは最後まで守り抜きたいなって思うよ」

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