第53話

私は手に持っていた紙袋を指差し、



「大丈夫です、ちゃんとリア充してますから」


と口角を引き上げると、彼女は安心したように眉を下げた。




そうだなぁ…と考え込む横顔は、本当に学生のようだ。



生徒の唐突な質問に、こんなに真剣になってくれるあたり、彼女が生徒から好かれる理由の一つだろう。




「大切なものを選ぶ…かなぁ」


「大切なものを選ぶ?」



スーッと鼻から息を吸い、彼女は窓の外に視線を向ける。




景色を眺めている、という感じではなく、その先に漂う過去の気配を眺めているみたいに。




「教科書通りにならないことって沢山あるじゃない?」



とリカちゃんは口を開いた。




私は何も言わずに彼女の言葉に耳を傾ける。

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