第46話
「え、でもそんな大事なもの売っちゃっていいの?」
「どうせ死ぬんだし、形見なんかもうどうでもいいでしょ」
確かに死ぬ前に自分の持ち物をどうしようと勝手だ。
理屈はわかっても、何となく釈然としないのは擦り込まれた道徳に反しているからだろうか。
そんなこと言い出したら自殺なんてもっての外なわけだけれど。
「あ、それか七海の絵売って金に変えてみる?」
閃いたみたいにカナメが起き上がり、私の部屋の至る所に立て掛けられている絵やキャンパスを指差して言った。
「こんなの売れるわけないじゃん」
絵の世界がそんなに甘くないことくらい、私にもわかる。
たとえ端くれでも絵を描いていれば素人目には落書きに見えるような作品にも、それ相応の価値を見てとることができるようになる。
細部にまで抜かりない細やかな筆の跡、絵に込められた想い、その背景にある画家の儚く美しい追憶。
絵で食べていける人には、ちゃんとその理由がある。
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