第38話

ローファーに履き替えて、校舎を出る。



自転車置き場から自転車を運び出し、校門の先でカナメが一度立ち止まって校舎を見上げた。


自転車を支えながら、私も同じようにそれを見上げる。



もう二度とここでの学校生活を送ることもないと思うと、少なからず寂しいような、名残惜しいような、そんな気がしてくる。




でも、それは幻だ。


わかっている。




ここには楽しい思い出より数百倍の、苦しい記憶が漂っている。



思い出しただけで息がつまるような、胸が捥がれるような、恐ろしく冷たい記憶が。




自転車にまたがり、校舎とは反対にペダルを踏み込む。


地鳴りのようなセミの声が耳に痛い。

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