第37話

それが自分でも気づかない間に描くことを辞めていた。


思い返せばすぐにわかる。


クラスでいじめが始まった頃からだ。



「夏の間になんか描けば?」



だらしなく肌けたワイシャツの首元に手を入れて、ボリボリと掻きながらカナメが言った。



「そう言われても、描きたいものなんて今は何も」


「よくわかんないけど、どうせ死ぬと思えば何かしら見つかるんじゃない」



どうせ死ぬ、その響きに妙に納得してしまった。



確かにどうせ死ぬなら深く考えず、とりあえず題材を見つけて描いてみるというのもありかもしれない。



うまく行ってもいかなくても、どうせ死ぬのだからあと先なんて気にする必要がないのだから。

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