第23話

私が慌てて立ち上がり「待って!」と声をかけると、彼は振り返って言った。



「死にたいんでしょ?いいよ、七海が死ぬなら俺も一緒に死ぬ」



言葉に詰まった。


彼のまっすぐな眼差しに胸がザワザワと音を立てる。



「で、でも、カナメには死にたい理由なんてないでしょ?」


「あるよ、そんなもんいくらでも」



そう答えたカナメはこちらまで息苦しくなるほど冷酷な目をしていて、本当に死を望んでいるように見えた。


私とは違い、華やかで人気もあって、死にたいなんて思う理由はないと思っていた。



けれど、もしかしたらカナメにも私の知らない苦しみがあるのかもしれない。


苦しみを計ることはできない。


けれど人は常に比べたがる。


そんなことで死ぬなんて情けない、弱い、もっと苦しんでいる人がいる。


だから一見大丈夫なように取り繕うことが必要な時もある。



外面を取り繕うことなど誰にでも出来る。


けれど取り繕っている人ほど心は孤独だ。


夏の日差しが影を濃くするように、取り繕うほど心の闇はより一層深くなる。




言葉に詰まり黙っていると、彼が続けて言った。



「でもさ、どうせ死ぬなら、ちゃんと死に方考えたくない?」



行動とは裏腹に妙に冷静な口ぶりだった。

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