第21話
「ここ、幽霊が出るらしいよ」
その声に、私は泣き腫らした顔を上げた。
カナメがゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
ポケットに手を突っ込み、澄まし顔で空を見上げながら。
「やめてよ」
私は怪訝に顔をしかめた。
今はそんな冗談を笑って聞ける気分ではない。
カナメは私のすぐ隣まで来ると、鉄柵に捕まり体を反らすように腕を伸ばした。
夏だなぁ、なんて呑気に呟いている。
ハッと思わず呆れ声が出た。
人の気も知らないでいい気なものだ。
けれど少しだけ、羨ましささえ感じられた。
私もそんな風に楽観的でいられたら、少しは生きるのが楽だったかもしれない。
「……さっきはありがとう」
膝を抱かえ俯きながら、私は小さくお礼を口にした。
あそこでカナメが助けに来てくれなかったら、もっと笑い者にされていたに違いない。
想像しただけで深いため息が漏れた。
未来への希望なんてもうとっくに打ち砕かれている。
「……なんで私の人生ってこんな最悪なんだろう。これから夏休みが来て一時的にここから逃げられても、また九月になったら学校なんだよね。そしたら今度こそ教室に戻らなきゃ本当に留年になっちゃうのに」
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