第20話

抜けた空に夏雲が沸いていた。


強い向かい風がスカートを捲り、私を中へ押し戻そうとする。


風に逆らって屋上の囲いの鉄柵を掴かむ。



腕で身を浮かせ、乗り出そうと下を見下ろして、


―――動けなくなった。



六階建て校舎の屋上は思ったよりも高い。


そのすぐ先には、あの日のホームと同じように死の気配が漂っていた。



そこでようやく今、自分がしようとしていたことに気づいた。



我に返ると、緊張で強張っていた体の力が抜けていく。


堪えていたものが目の奥からどっと溢れ出し、私は蹲るように鉄柵の前にしゃがみ込んだ。



――どうしたらいいのか、もうわからなかった。



戻れるなら、教室に戻りたい。


でも、もうあんなところに戻るのは無理だ。



きっとクラスメイトの人生にとって、このいじめは大した出来事ではないのだろう。



大人になれば若気の至りだったなんて軽い言い訳を並べて、いつか忘れてしまうくらいのことなのだ。


そう思うと許せなかった。


憎しみに抱えていた膝に思い切り爪を立てる。



私は絶対に忘れない。


一生恨んで、仕返ししてやりたい。



彼らにトラウマを植え付けるくらいの、



何かーーー派手な死に方で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る