第17話
静かに開けたつもりが、滑りが良過ぎたせいで、思ったよりも勢いよくドアが開かれた。
開けた瞬間、中にいた全員が一斉にこちらを振り返る。
賑やかに響いていた笑い声が嘘のように静まり返り、その空気は冷たかった。
まるで氷でできた教室みたいだ。
整列して並べられた机の上。
そのうちの一つに花瓶に活けられた花が飾られている。
花の名前なんて数えるほどしか知らないけれど、わかる。
あれは祖父の墓参りの時に母がいつも選んで買って行く菊の花だ。
死んだ人に備える花だ。
それが私の机の上だとわかった時、血の気が引いていき、足元のリノリウムのつなぎ目がぐにゃりと歪んで見えた。
突然、一人の男子生徒がスターターピストルみたいに乾いた声で笑い始めた。
「ふははは!!お前まだ生きてたの!?」
それが合図とばかりに、教室中に笑いの波が広がって行く。
「本当に生きてたんだ!動画見て電車に轢かれて死んだのかと思ってたのに!」
「……動画?」
嫌な胸騒ぎがする。
「七海が電車に飛び込もうとしてる動画、クラスのグループラインで回ってたの知らないの?あ、そっか。あんたグループに誘ってないもんね!」
あの日、私が死にたくなるほどの思いをさせられた後ろで、クラスメイトが面白がりながら撮っていたあの動画をこのクラス全員が共有している。
その事実を聞かされ、私は心底ゾッとした。
あれを見てもなお、抗議する人間が一人もいないこのクラスに、絶望した。
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