第16話

意気込んでどうにか保健室を出たものの、足は教室よりもずっと手前で止まっていた。


戦場に武器はおろか、防具も身につけずに立ち尽くしているみたいだ。



とりあえず今日のところは帰りのホームルームに合わせて顔を出すつもりが、このままでは終わってしまう。


頭では歩み出そうとするのだが、体が動かない。



開け放たれた廊下の窓から遠くで鳴くセミの声が聞こえる。


もう夏が来たのだな、と頭の端っこで冷静な自分が思う。


もうすぐ夏休みが来る。


夏休みが来ればもうしばらく学校には来なくていい。



そう思うと少しだけ心に余裕が生まれた気がした。


だから今だけ。今だけ少し頑張ろう。



鎖で繋がれてたように重い足を、引きずるように前に出す。


もう一歩、もう一歩前へ。



教室の後ろのドアの前で足を止める。


曇りガラスで中は見えないが、担任の先生と生徒たちの笑い声がキンキンと耳鳴りのように聞こえて来る。




手をドアにかける。


ドアに触れて初めて手が震えていることに気づいた。



一度、深呼吸をする。吸って、吐く。吐いて、吸う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る