第13話

「私がいない間、誰か来なかった?」



そう訊かれて、成美の名前が喉の奥まで出かかったけれど飲み込んだ。


成美に言われているのだ。


リカちゃんには私が来たこと言わないで、と。



二人の間に何かあったのか、ただ単に苦手なだけなのかはわからない。


けれど成美は露骨なまでに、いつもリカちゃんのことを避け続けていた。



「誰も来なかったよ」


「そっか、よかった。あ、さっきまた担任の渡辺先生に月島さんのこと聞かれて、今はまだ気持ちの準備が出来てないと思います、って断ってしまったけど大丈夫よね?」



担任の名前に、反射的に喉が詰まる。



担任のことを先生などと思ったことは一度もない。


目の前で問題が起きていようと、見て見ぬ振り。


弱者より、多数派の味方をして自分に標的が回らないよう、時には一緒になって弱者を笑い者にさえする。


そんな大人に「先生」と敬意を払う価値などない。


この学校で私に手を差し伸べてくれた大人は、リカちゃんだけだった。


とはいえリカちゃんも先生というよりは友達、という雰囲気が強いのだけれど。

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