第12話

誰もいない保健室は、まるで防空壕みたいな緊張感と、安心感が入り混じる。


すぐ外は戦場だ。


いつクラスメイトがここまで私をからかいにやってくるかわからない。


ここは気休めに過ぎないのだ。


敵はいつも、知らぬ間にジリジリと私の背後に忍び寄る。



と突然、保健室のドアが勢いよく開き、驚きのあまり肩が跳ねあげて振り返る。



「ごめんごめん、月島さん!ひとりで大丈夫だった?」



そう言って、白衣の裾を翻しながら保健室に入ってきたのは、保険教師だった。


心臓が止まるかと思った。


一瞬で乱れた鼓動を抑えるように、ブラウスの上から胸に手を押し当てる。



「リカちゃんか…。いきなり入って来るからびっくりした」



そんなに元気よかった?と戯けるように笑いながら自分のデスクの上に持って帰って来た書類を置く。


彼女こそ、はじめに私をここに連れてきた張本人だった。


一ヶ月前、久しぶりに登校したものの、教室の前で動けなくなっていた私を見つけ、「よかったら紅茶でも飲みに来ない?」とナンパの如く軽やかに保健室に誘い出してくれたのだ。



彼女はいつも明るく優しくて、生徒たちからの人気も高い。


白衣ではなく制服を着せたら、高校生に見間違えるくらい童顔で、可愛らしい外見のせいか、生徒たちには〝リカちゃん〟という愛称で呼ばれている。

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