第11話
何気なく壁掛け時計に目を向けた成美が、おもむろに立ち上がる。
捲れたスカートをさっと撫でて直す。
グレーとエンジ色のチェックのスカート。
私が着ているものとは少しだけ色が違っている。
少し前までは彼女は着ているものが指定の制服だったけれど、最近デザインが変更されたのだ。
前に尋ねたら、お姉さんが同じ高校でお下がりを着ていると言っていた。
違反ではないのでそのまま使っているらしい。
そういうことも、時にイジメの対象になるのだろうなと思ったが口には出さなかった。
じゃあそろそろ行くね、とドアに向かって行く彼女の背中を見送る。
成美は私とは違って、ずっとここにいるわけではない。
ここに来るのはいつも、保険の先生がいない時だ。
何かあの人苦手なんだよね、と前に成美は言っていた。
ドアの前でふと立ち止まった成美が、くるりと振り返って私を見遣った。
「七海、死にたきゃ死ねばいいよ。あんたの人生なんだし、好きにしたらいい。でももし死ぬなら、よく考えて百パーセントの気持ちで死ぬんだよ。最後の瞬間に、笑えるくらいにさ」
言葉とは裏腹に、風が押したくらいの心許なさでドアが閉まる。
足跡も外の雑音に紛れてすぐに聞こえなくなった。
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