第9話

〈リストカットとは、自殺行為ではなく、生きるための行為だ〉



中学の頃読んだ本にこんなことが書いてあった。


その頃はリストカットなんてしたことも、この先することになるとも思っていなかったからピンとは来なかったけれど、今ならわかる。


本気で今すぐ死ぬつもりなら手首なんて切ったりしない。


手首を切って死ねる確率は全体の五パーセント程度だという。


要するにこの行為には自殺気分を味わうくらいの効果しかない。


子供が甘酒を飲んで酔ったふりをしているようなものだ。



それでもそれをすることで、嫌な記憶が一瞬間紛らわせる。


死にたいという瞬発的な気持ちを誤魔化すことができる。


生きることが少し楽になる。



バレていたとわかると、何だかふっと体の力が抜けていくような気がした。



駅のホームで倒れ込んだあの日から、もう二ヶ月、教室で授業を受けていなかった。


初めの一ヶ月はまるまる学校を休んでいた。


学校に行こうとすると吐き気を催すようになり、両親に言われて病院に行ったら、統合神経失調症と診断されたのだ。


時間を開けすぎると余計に登校しづらくなる、と両親に促され、なんとか登校を再開したものの、代わりに保健室にくるようになったことをまだ両親は知らない。

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