第7話

「飯まだだろ?一緒に食べるか?」



そんな私のことなんて露知らず、彼はいつもこうして両親の帰りが遅い私のことを気にかけてくれている。


彼もまた父子家庭で親の不在が多く、今思えば物心つく前からこうして子供同士助け合ってきたのだ。



そういえば、さっきからカレーの匂いがそこら中に漂っていたな、と改めて思う。


けれど今はとてもじゃないけれど、食欲なんて微塵も感じられなかった。



「今日はいいや」と短い返事だけしてそそくさと家の中に入る。


カナメはまだ何か私の背中に言葉を投げかけていたけれど、聞こえてないふりをした。



一刻も早く独りになりたかった。


部屋に閉じこもり、そのまま机の引き出しの中からカミソリを取り出す。


露わになった刃を手首に当てて、ぎゅっと目を瞑る。



走馬灯のように今さっきの記憶が脳を駆け巡り、心拍数がバグバグと上がっていく。


我慢していた涙がぼろぼろとこぼれ落ちて、悔しくて情けなくて恥ずかしくて、手首に食い込むほどに剃刀を押し当てる。




―――もうこんな世界、消えてなくなればいいのに。


私はためらうことなく、カミソリを思い切り横に引いた。

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