第4話

それを合図に、彼女は容赦無く後ろから私の背中を突き飛ばした。


黄色い点字ブロックのギリギリ手前で止まり振り返ると、彼女らはスマホをこちらに向け、怯える私の姿を撮影しながら楽しそうに顔を綻ばせた。


もっと前に行けよ、と乱暴に顎をしゃくり促される。


逃げたいのに、足が竦んでまともに動くことさえ出来ない。



「ねえ、さっさと落ちてくれないと、その子に気持ち全然わかんないんですけどぉ」



背後で響く野次にどうすることも出来ず、震える唇を噛み締める。


向こうの線路から電車が徐々にこちらに近づいてくるのが見えた。


私の異変に気づいているはずの周囲の人たちは、素知らぬ顔を背けるだけだった。


促され、もう一歩前に出ようとするが、すぐ目の前に潜む死の気配に恐怖を感じずにはいられなかった。



「……ごめんなさい」



震える声で呟く。



「はぁ?何、聞こえない、もっと大きい声で言えよ!」


「ごめんなさっ…」



その時、勢いよくホームに入ってきた電車が私の体を霞めて通り過ぎ、その拍子に後ろに倒れ込むように尻餅をついた。


それを見ていた彼女たちの甲高い笑い声と、そばにいた乗客らの冷たい視線に、身体中が一気に熱くなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る