第14話

14話:探偵日菜子!


…木の影で、こっそりある人物を見つめる日菜子。

「お〜可愛いな、お前」

視線の先の人物は、楽しそうに戯れている。

(な、なぜこんなことに…)

日菜子はどうしてこうなったのか、今までの出来事を振り返った。


***


某日。自室にて。

日菜子はベッドの側面に背中を向け、パステルカラーのクッションを体と足の間に挟んで座りながら、考える。

数日前、日菜子達の元に、怪しげな先輩が現れた。

私の事を出会い頭に『可愛い』と言った先輩。

あの時は色々ありすぎて混乱、恥ずかしさもあって、流されるままになっていたけど…。

正直…

(…怪しい…!!)

心で叫んだと同時にクッションを握る手の力が強くなった。

いきなり私に対して可愛いだなんて、"あの"先輩が言うだろうか?

見た目はやんちゃ?なヤンキー。

性格は、明るくて誰に対しても分け隔てなく接する(イメージ)。

少し気になるところがあるとすれば、女性に対してキザったいところだろうか。

冗談だけど、千里さんにナンパのようなことをしていたし…。

そんな明るい人が、私のような地味で暗い人を可愛い…?

私と同じで、関わったことがなさ過ぎて物珍しいのだろうか。

正直関わったことが無い人柄すぎて、なんと言ったらいいか、分からない。

「…悪い人、ではないと思うけど…」

なんだろう、どうもまだ信用できない。

嫌いではない。

しかし、千里や千冬は日菜子にとって大切な友人。

もし見た目通り悪い人だったら、と考えるとどうしても怖いのだ。

…と、そこまで考えてハッとし、首を横に振る。

(まだあって間もない人のことを憶測で判断するのはだめ、だよね…)

どんな人間であれ、深く相手のことを知らないのにとやかく言うのは駄目だと、日菜子は思っている。

もちろん、深く知っていても駄目だが。

思っても、それを口に出して相手を傷つけないようにする事が大切なのだ。

それなら、と日菜子は閃く。

先輩が悪い人じゃないかどうか知りたい。

そして千里達に悲しい思いをさせたくない。

(…それなら、調べてみれば良いんじゃないでしょうか…!)

数日、先輩の一日の行動を追ってみる。探偵のように…。

そうしたら何か分かるかもしれない。

「よ、よし!明日から頑張ってみよう…!」

緊張とやる気と、少しの背徳感。

こうして、日菜子の『探偵』生活が始まったのだった。


         ***


一日目。

相変わらずピアスを付けていることにより、先生に叱られている。

変化なし。


二日目。

購買で昼食のためのパンを購入。

だけど、買えなかったクラスメイトに自身のパンをあげる。

…意外といい人、何でしょうか。


三日目。

屋上で授業を怠る。(日菜子は授業中たまたま発見)

これも怒られている原因にありそうです。


四日目。

クラスの方とお昼休みに談笑。

その際の喧嘩を話し合いで仲裁。

意外です、リーダー性があるんですね…


五日目。

放課後、道端で困っているおばあさんを助ける。

コ、コミニケーション能力、恐るべし…


六日目。

近所の子供たちと公園で遊ぶ。

運動神経が良くて、大活躍中です


(明日はやっと七日目…今度こそ決定的な何かがある気がします!…て、私は一体何を!?)

六日目にしてようやく、日菜子は我に返った。

ここで冒頭に戻る。

考え始めた時は、好奇心と正義感、少しの不信感で深夜テンションのように気分が高揚していた。

それでも、さすがに目が覚めてきた。

(こ、これじゃストーカーみたい。今、私が一番『悪い人』…!)

日菜子は猛烈に反省した。

いくら怪しいからと言って、この行動は良くなかったと。

そうこうしているうちにすっかり夕暮れ時となり、子供達は帰っていった。

残ったのは、先輩ただ一人。

「お〜可愛いな、お前」

今は野良猫と楽しそうに戯れている。

そして自分は、先輩の後ろの木の陰に隠れている状態。

(と言っても数メートル離れているが)

なんだか余計に”私は何してるんだろう”感が強くなってきた。

(先輩は特に悪い人じゃなさそうだって分かったし…私も帰ろう…)

踵を返そうとしたときーー

「にゃー」

「え?」

足元で猫の鳴き声がした。

慌てて下を見ると、確かに先輩と戯れていた…白猫がちょこんと日菜子の前に立っている。

「え?え?」

なぜここにいるのか。自分のもとに寄っているのか。

混乱している日菜子に、

「あれ?日菜子ちゃん!?」

驚いたような声が訪ねてきた。

言うまでもなく、先輩だ。

先輩は駆け寄ってきて、嬉しそうに微笑む。

「えっ公園で会えるとかすげー偶然じゃん!めっちゃ嬉しい…!」

どうやら、先輩は日菜子の尾行に気づいていなかったようだ。

「…あ、えっと今日は散歩してて…。たまに寄り道するんです」

これは嘘ではない。

散歩は少し嘘になるが、日菜子だって寄り道くらいする。

本当の理由を言えないのは心苦しいが、仕方ない。

言ってしまえば、嫌われそうだから…

(…あれ?)

日菜子はふと過った言葉に、疑問を抱く。

(私、先輩に嫌われたくないって思ってる…?)

ただ、最初は悪い人じゃないか確かめようとしただけ。

けど、毎日先輩を見ているうちに私は…

「…先輩が良い人だって分かった(仲良くなりたいと思った)から…」

「…えっ」

先輩の、少し驚いたような声。

自分でも気づかないうちに声に出ていたらしい。

「すっすみません…!変なことを口走ってしまって…」

カーっと頬が熱くなる。

散々警戒しておいて、この態度はなんだ。

自分の単純さが恥ずかしくなる。

「…いや、俺すっげー嬉しいよ?俺の気持ちとか関係なく、単純に仲良くなりたいって気持ちがあるだけで嬉し…いや、でもやっぱそれだけは…うわ、うーん…ーー」

何か自分の感情と葛藤し始める先輩。

それでも、先輩も仲良くしたいと言ってくれた。

(本当に…全然悪い人じゃない。この人と、もう少し話してみたいな)

日菜子はこれから先輩のことをもっと知ろうと心に決めた。


        ***


そんな日菜子の隣で、龍也は…

(…と、言うか言ってしまえば全部気づいてたけどね!?尾行!可愛いから無視してたけど…理由それ(仲良くなりたい)かよ~!!マジ可愛すぎ…好きだわ~)

心の中が大荒れだった。

正直、顔に出さないようにするので必死だ。

内心、顔真っ赤&汗だくだく。

少し理由は違えど、龍也にとって嬉しいこと変わりない。

二人にとってこの会話は始まりでしかないことを、今の二人は知る由もないのだった。

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