第14話

13話:本番とお疲れ様会


「…テ、テスト開始だ〜!!」

拳を上げる千里。

「今まで頑張ってきたから大丈夫だよ」

「お互い頑張りましょう!」

千冬と日菜子は優しく言う。

そう、今日はテスト本番である。

恋バナなど、勉強意外のものが多かった気もするが…

まぁ、何だかんだ言って、テストは近づいていたのである。

「さ、最初は古文か〜…なぜ現代に古文を…」

教科書を開き、最後の確認をしながら、難しい顔をする千里。

「それはもう言っても仕方ないでしょ。…それよりここの文法は覚えてる?」

千冬は呆れたようにため息を着く。

だが、その声は子供を諭すように優しい。

「…うっ!わ、忘れてた…でも今から覚える…!」

ちょっと見せて!と千冬に近寄り、教科書を覗き込む。

千冬は当たらないように、気づかれない程度に避けていた。

日菜子は、そんな2人の様子を自分も教科書を確認しながら見つめる。

(…こんなに距離が近いのに何も無いんだ…千里さんだから…?)

若干失礼な事を思っている気もするが、的を射ている。

日菜子のドキドキも他所に、

「もうすぐテストだぞー早く教室入れ」

先生の呼び掛けで次々と生徒が教室に入っていく。

日菜子や千里達も後に続く。

「よーし!頑張るぞ〜!」

やる気を取り戻した千里は、意気揚々と教室に入っていった。


***


「…お、終わった…もうやだ…疲れた…」

机に倒れて、口から白い”何か”を出す千里。

直で言うと、死んでいた。

「…私はもう脳の全てを使い果たした…ここの学校テスト難しい…」

…ものすごく疲れているらしい。

「お、お疲れまです…!千里さんは良く頑張りました!」

よしよし、と千里の頭を撫でる日菜子。

完全にお母さんである。

「お疲れ様、千里。……そうだ、ご褒美に甘いもの食べに…」

「…行く!!!」

千冬が完全に言い終わる前に千里が声を遮る。

目に生気が戻っている。

「どこに行きましょうか!」

「私、ファミレスに出た新作パフェ食べたい!」

はいはーいと元気良く手を上げる。

「良いね。じゃあ駅前のとこにしようか」

わいわいとパフェの話で盛り上がりながら、千里達は帰路に着いた。


「パッフェ〜パッフェ〜!」

ファミレスに着いた千里達は、テーブルに着いていた。

ウキウキとした様子で千里はメニューを開く。

「…桃パフェに、苺パフェ…!どれにしようかな〜」

人差し指をパフェとパフェに、交互に動かしながら、どちらにしようか悩んでいる。

「…千里、どっちも頼みなよ。半分こしよう」

松村さんも食べるでしょ?と、提案をだす。

「それだ!そうする〜日菜子も食べよ!さんぶんこ!」

「…!じゃあ私、ひとつは抹茶パフェ食べたいです!」

少し恥ずかしそうにパフェを指さす。

日菜子は出会った頃より、自分の意見を言うようになった。

仲良くなってきた傾向である。

「いーね〜!あ、千冬!ドリンクバーもつけてー」

「分かった」

千冬は、ピッピっとタブレットで注文する。

「早速飲み物取りに行こ!」

千里達はドリンクバーに行く。

(何にしようかな…)

千里はバーの前で悩む。

いつものメロンソーダか、それともコーラやジュースなどの別のものを頼むか…

決めかねて、メロンソーダにしようと手を伸ばすも…またそこで悩み、チラリと隣にいる千冬を見る。

千冬はコーヒーを飲もうとボタンを押そうとしていたところだった。

「……!千冬、コーヒー飲むの…!」

キラキラと興味津々に千里が尋ねる。

「うん…そうだよ?」

幼なじみの千冬と千里だ。

何回も千冬がコーヒー(カフェオレ率が高い)を飲む姿など見ているだろう。

それでも、いつも新鮮な反応をする千里を微笑ましく思う千冬だった。

「…私も飲む!」

少し悩んで千里が言った。

「…え、千里コーヒー飲めたっけ?」

「え?全然」

(…不安だ…)

それでも、変なとこで頑固な千里は、1度決めたら揺るがない。

何を言ってもだめだろうな〜思った千冬は、少々心配ながらも2人分のコーヒーを入れる。

コーヒーがカップに注がれているところを楽しそうに覗いている千里。

それを横目に千冬は目を細める。

と、その時。

「…千冬と同じもの飲めるね!」

ふと、千里が千冬の方を見て笑った。

「………!…そうだね」

不意打ちにドキッとしながらも、平然を装って千冬は答えた。

同時にコーヒーをでき、2人は席に戻った。

日菜子は先に戻っていた。

「日菜子は何にしたのー?」

席に座りながら千里が尋ねる。

「私は紅茶ですよ。千里さんは…あれ?コーヒーなんですか?」

少し、珍しそうに目を開く。

「そうだよ!千冬と同じ〜」

「…千里が飲みたいって言ったからね。」

呆れたように千冬は言って、コーヒーを飲む。

その様子はすごく、それはものすごく、様になっていた。

イケメンパワー…恐るべし。

「…砂糖とミルクは本当に良かったの?」

飲もうとしている千里に、確かめるように問う。

「大丈夫!千冬が飲めるんだから!私も飲めるよ。千里様に任せなさい!」

ドンッと胸を張る千里。

その謎の自信は一体どこから湧くのだろうか。

ごくんっ

千里が1口飲む。

千冬と日菜子は少し緊張した面持ちで見守る。

「……………………………。」

千里は、黙ったままだ。

すごく、顔を顰めている。

…まぁつまり…そう言うことである。

そのまま、千冬のコーヒーを取って、また1口飲む。

「「………!!?」」

これにはびっくりする2人。

「……………………………苦い。」

ベッと舌をだして、また渋い顔をする。

「当たり前でしょ…」

千冬には、なぜさっきあんな行動を取ったのかが気になって仕方ない。

千里は気づいていないだろうが…

「ち、千里さんどうしたんです?」

「…コーヒー苦かったんだけど…千冬は平気で飲んでたから、そっちは苦くないと思って…」

千里は気まづそうに目をそらす。

その言葉で、千冬は昔のことを思い出す。

「…昔も千里、同じことしてなかった?」

「「え?」」

日菜子と千里の声が重なる。

「ちっちゃな頃の話だけど…同じような事してたと思う」

心は変わっていない千里である。

「え〜なんか恥ずかしい…私、メロンソーダ取ってくる!」

ピューっと逃げるように千里はドリンクバーへ走っていった。

千里がいなくなったことにより、少し静かになる。

あまり2人になったことの無い組み合わせだ。

先に口を開いたのは千冬だった。

「…呆れるよね、千里」

話しかけると言うより、独り言に近い呟き。

千冬の口元は、自然とほころんでいる。

「千冬くん…」

(やっぱり千冬くんは千里さんの事…)

一瞬驚いた顔をした日菜子だったが、つられて微笑んだ。

「…そうですね」

「…なになに〜?何の話っ?」

ちょうど、千里も戻ってきた。

「少し内緒話です。…ちょうどパフェも来ましたよ」

「え〜?…あっパフェ!」

3人の高校生は放課後、話に花を咲かせた。

甘いパフェと、ちょっぴり苦いコーヒーを飲みながら。

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