3章

第40話

40話:全部話すよ


※今回の話は病気や死の瞬間などを書いています。ご自身の判断で読んでください


「わ~もう暗いね~!」

千里が何時ものように明るい口調で言う。

「でも星があるから意外と明るく感じるかも」

千冬もまた、何時もの口調で返す。

千里は”いつもの調子”をふるまってくれている。

自分を不安に、心配させないようにと、千里なりの優しさだ。

それなら自分も…話すまではいつも通り振舞わなくては。

千冬が意見を述べると、千里はその発想はなかったらしく、少し驚いた様子だった。

「確かに!」

そんな話をしながら歩いていると、目的地…公園に着いた。

二人の家からさほど遠くない近所の公園。

ブランコや滑り台、砂場はもちろんなのだが、ここはなだらかな丘があるのが特徴だ。

土を盛り、人工芝を植えた丘の上で良くおやつを食べていた。

遊び終わって必ず行っていたルーティン。

千里も千冬も、なんだかんだ言って一番好きだった。

「懐かしいな~最近言ってなかったもん」

千冬が丘を見ながら懐かしんでいると、千里は立ってブランコを漕いでいた。

「そうだね」

しかし千冬が答えたタイミングで飛び、綺麗に着地した。

そして走って千冬の隣に並んで歩く。

「…やっと来た、遅かったじゃない」

丘の上から呆れたような声がした。

完全に二人だと思っていた千里は声の主を見て叫んだ。

「え!!?霞草さん…?!」

霞草は先ほどまで読んでいたのか、両手に本を持っている。

服装はTシャツにジーンズ、カーディガンとラフな格好だ。

「…言っておくけど、私はずっとここに居たわよ。ーー千冬に呼び出されてね」

「え?呼び出された…?千冬、ほんとなの?」

霞草に集中していた視線を今度は千冬に向ける。

千冬が人を呼び出すなんて、珍しい。

「……うん。千里に連絡する何日か前に、事前に…。これから話すことは俺だけじゃなくて、霞草も関係あることだから」

千冬が視線を霞草に向ける。千里も同じように向けた。

その視線を受けて、霞草は無言で頷く。

「…まぁ、そうね。千冬の知ってることだけじゃきっと足りないから、補足してあげる」

「で、でも、その、霞草さんは良いの?あまり話したくないことなんじゃ…」

淡々と話が進みそうな様子に、千里は狼狽える。

千冬があれだけ言うことを躊躇っていたのだ、相当辛い過去なんじゃないのか、と嫌でも頭に過ってしまう。

「確かにそう。…だけど、それを決める資格は私にはないから」

千冬が決めたならそれに従うだけ、と一瞬悲しそうな表情を浮かべて言った。

「そっか…」

霞草なりにちゃんと過去の線引きをしている。いや、一種の決意か。

それを言われたなら、千里は黙るしかない。

「…ところで、いつまで突っ立ってるの?話すなら上ってきなさい」

「は、はい…!」

千里は緊張気味に丘を登る。

千冬も後に続く。

だが、上についた時にはすっかりその気持ちは消えていた。

なぜなら…昔と全く変わらない景色があったから。

「…ふふっやっぱりここ、好きだな~」

足を延ばし、リラックスした様子で千里は言った。

そんな千里の横顔を見ながら、千冬は大きく一呼吸する。

(…大丈夫、千里は明るく受け止めてくれる)

「俺も。千里とお菓子いっぱい食べながら話して、笑って。…今日は全然違うけど…聞いてほしい」

千冬は今日、一番真っすぐ千里を見た。

「もちろん!どんとこいっ!」

不安を全く感じさせない笑みに、千冬はどこか心が落ち着く。

「…まずは霞草と出会うことになった話から…」


            ***


6年前。とある市立病院にて。

「…あ、千冬!時間通りだね」

扉を開けてすぐ、ベッドから声がかかった。

「うん。話せる時間少ないし…あと、頼まれてた本持ってきた…。ーー千春」

千冬はこくりと頷くと、目の前にいる人物に本を差し出す。

「ありがとう」

それを受け取り、柔和な笑みを浮かべる”自分と全く同じ顔をした”人物。

彼ーー千春は兄であり、一卵性双生児、つまり双子だった。

「今日は調子良さそうだね」

千冬はベッドの隣にある椅子に座った。

ここは個室なので、他に患者はいない。

「うん。起き上がってこの本が読めるくらいにはね」

パラパラと楽しそうに本をめくる千春。

そんな千春を、千冬はジッと静かに見つめた。

千春は、赤ん坊の時からずっと入院している。

だから、家族以外に千春の存在を知る人はいない。

母さんがうわさが広まって俺達に危害が及ぶことを危惧して、口止めしていたのもあるけど。

入院の理由は原因不明の難病。

ずっと検査していないといけないとか。

そのせいか両親は共働きで、千春の面会時間は、ほとんど自分が来ていた。

千冬はその現状を辛いとも、可哀想とも思っていなかった。

千春が凛としていて、自分にできる事を探して努力していたから。

千春は頭がよかった。

今も、大学の入試問題を解いているくらいには。

元からの才もだが、解説動画を見たり、他の患者さんに聞いたり、たくさん努力していたことは二人の秘密だ。

「…それ、面白い?」

腕の上に顎を乗せ、ベッドの脇に体重をかける。

「面白いよ。解いたら千冬にも貸してあげる」

答えはすぐに返ってきた。

が、視線は本に集中している。

「俺は良いよ。前に貸してもらったのとか、あるし」

「そう?じゃあ千里ちゃんに貸す?」

「……千里は算数苦手だから…。やっぱり俺が借りる」

少し気恥ずかしそうに視線を逸らす千冬を、千春は優しい視線で見つめる。

なぜ千春が千里のことを知っているのかというと、千春が前に「友達できた?」と聞くと千里の名前が出てきたからだ。

あと、良く千里のことを話すから。

当の本人は気づいていないようだが。

「…あぁ、そろそろ時間だね。次はいつ来る?」

壁にかかった時計を見て、千春は残念そうに眉を下げた。

まだ気持ち数分しか経っていなかったのだが、30分は経っていたらしい。

千春の場合、病の原因が分からないので面会時間は30分ほどとなっている。

千春の体調にも理由はあるが。

「明日放課後は委員会で来れないから…金曜日、行く」

帰りの準備をしながら言う。

「分かった。じゃあね、千冬」

「……うん」

千冬は少し悲しくなりながら病室を出た。

千春は、別れる時いつも「じゃあね」と言う。

分かっているのだ、千春は。

その先の考えは、恐ろしくて千冬には言語化できない。

何もできない悔しさで唇を嚙み締めた。

だから…自分の横を通り、病室に入っていく少女の存在を認識できなかった。


          ***


「ほんとに貴方そっくりね。一瞬元気になった貴方かと思っちゃったわ。…千春くん」

「…会うのは三日ぶり?事務仕事お疲れ様」

千春は先ほどまで読んでいた本をしまい、新たな客を出迎える。

その客はベッド横に置かれたままの椅子に座りながら不快そうに眉を下げる。

「事務仕事って言うの止めて。まだ社長じゃないんだから、練習よ」

「ごめんね、悪気はなかったんだ。ーー霞草」

困ったような笑みを浮かべて、千春は目の前の人物へ視線を向けた。

十歳とは思えないほどのきれいな顔立ちは、将来美少女になることを彷彿とさせているようだ。

伸ばし途中の、少し癖っ毛な茶色の髪。その髪色が引き立たせる、撫子色の目。

綺麗なのは容姿だけではない。

彼女の立ち振る舞いや頭の良さも、彼女が綺麗だと思える理由の一つだ。

その完璧な彼女を見るたび、

(…本当、僕には勿体ない人…でもだからこそ、自分を変えたい…努力したいと思うんだよね)

と感じていた。

「……何、さっきから。私の顔に何かついてる?」

自分でも気づかぬうちに、ジッと見てしまったようだ。

霞草の訝しげな視線が刺さる。

「いや、何もついてないよ。…きれいだなって思ってただけ」

「なっ…!」

唐突の誉め言葉に目を見開かせ、驚く霞草。

「…あ、女の子は『かわいい』って言った方が良いって夏氷さん言ってたっけ?霞草はかわいいよ」

更にサラッと言っちゃう千春に、ますます瞳孔が開く。

「そういうことはサラッと言わないで。私の”婚約者”だからって限度があるわ」

呆れたのか怒ったのか、霞草はそっぽを向いた。

「まだ仮だけどね~」

ハハッと照れたように後ろ頭を掻く。

婚約者。

自分…早川千春には、齢9歳にして婚約者がいた。

経緯をとっても簡単に話すと、病院生活暇→勉強しよう!→なんかすごいできた。パソコンで何か事業の企画でも作ってみよう~→なんかお偉いさん来た!?→企画が目に留まっただけでなく、気に入られてしまった…!?→etc…などなど。

急に緩い説明になったが、本当に話すと長くなるので、許してほしい。

ちなみに企画とは、僕が事業をしているのではなくて、とある会社が○○する!とHPで呟いていたから、思いついた企画を送った…と言うことである。

まさかそれが偶然暁グループの会社で、社長の目に留まり、仮だとしても『婚約者』ができるとは思ってもみなかった。

なんて、幸せなこと。

でも神様は天に二物を与えてくれない。

僕は正直、いつ命が終わるか分からない。

明日があるのかさえ、分からないのだ。

急にずんと頭が重くなり、手に力がこもる。

「暁グループは、」

ふいに霞草は立ち上がり、呟く。

「…暁グループは、今貴方を直すべく尽力してる。……死なせたりなんか、しないから」

霞草にしては珍しく、今にも泣きだしそうな顔だった。

それでも震えているものの、いつもの凛とした声をだしている。

「………!」

暗い顔をしていたのがばれたのだろう。

霞草なりの、フォローだった。

クールで突っかかりにくいけど、とても心の優しい人。

僕の大事な人だ。

「ありがとう。さすが僕の婚約者(霞草)」

ふわっとした笑みが、自然とこぼれた。

「……だから、貴方はそう言うことを言わないで」

冷たく睨まれる。

霞草に完全に婚約者として許されるのは、まだまだ時間がかかりそうなのだった。


          ***


半月経った頃だった。霞草に出会ったのは。

「千春、来たよ」

いつものように病室の扉を開けた時、話し声が聞こえてきた。

「ここ、もっとスムーズに出来るようにして」

「分かった、直しておくよ」

千春と、知らない少女。

自分や家族、病院関係者以外誰も来ないので、千冬は訳が分からずその場で固まり、困惑気味に二人を見つめた。

「千冬…!来たんだね、呼んでくれれば良かったのに」

そのまま固まっていると、千春こちらを見て、嬉しそうにはにかんだ。

「あ、うん。ごめん」

本当は呼んだのだが、言い直すのもあれなのでタイミングを失ったことにする。

「千春、その、この人は?」

兄と、知らない人と自分。

何となく気まずいメンバーに、何か話題を振って雰囲気を変えようと尋ねた。

「あぁ、ごめんね。紹介してなかった。彼女は暁 霞草、僕の仕事のパートナー兼婚約者だよ」

サラッと重大なことを話す千春。

名前を呼ばれたと同時に、婚約者ーー霞草は頭を下げた。

「えっ…!!?」

婚約者。この年で縁遠い話に耳を疑う。

この頃から冷静沈着な千冬でも、こればかりは驚いてしまった。

「…千春くん、あまり人にベラベラ話さないで。どこで情報が洩れるか分からないでしょう」

霞草は怒ると言うより、呆れた口調で言い、ため息をついた。

「霞草、大丈夫だよ。この人は僕の弟だから!」

「何が大丈夫なのよ…」

ふわふわした口調で話す兄と、呆れた様子でいる婚約者。

意外とお似合いだ、と千冬は思った。

すでに夫婦に見えるくらいには。

「こうなった経緯はね…」

そのあとは、千春が経緯を教えてくれた。

何とも信じがたい話だったが、漫画だと思って何とか頭に入れた。

混乱している千冬に「人生、こんな夢みたいな話があってもいいんじゃないかな」と、千春は笑う。

その顔はどこか寂しそうで、嬉しそうだった。

「…それじゃ千春くん、私は帰るわ」

用は済んだとばかりに立ち去ろうとする霞草。

「…あ!霞草、待って。せっかくだし、記念に写真撮ろう」

「「え??」」

急な提案に霞草だけでなく、千冬も首を傾げる。

「水瀬さーん、ちょっと良いですか?」

千春はドアの付近に声をかける。

「あら、何?早川くん」

柔和な笑みで答えてくれたのは、千春を担当することが多い看護師、水瀬七草さんだ。

銀髪のセミロングの髪を後ろに束ねた、50代くらいの女性。

数年前、娘を事故で亡くしたらしい。

その水瀬さんはちょうど検査の時間だったのだろうか、良いタイミングだ。

「写真撮ってくれませんか?」

千春は自身のスマホを取り出して言う。

「もちろん!良いわよ、並んで」

そう言われ、やったと千春は喜び、千冬達を手招きする。

千冬は千春の左隣に移動する。

霞草は何か言いたそうだったが、千春の期待のこもった純真無垢な目を見て観念したらしい。

大人しく右隣に並んだ。

「…それじゃ、撮るわよー!ハイチーズ!」

パシャっと言う音とともにシャッターが切れる。

「ありがとうございます」

千春はスマホを受け取る。

良く撮れていたのか、千春はスマホを見て嬉しそうに微笑む。

その姿にその場の全員、心が温かくなるのだった。


         ***


…事態が悪化したのは、それから一年たった頃だった。

真冬で、今年初の雪が降り始めた日。

たまに三人でいることも当たり前になり、友人と呼べるようになっていた矢先だった。

「涼風先生…!!千春は…!!?」

息を切らしながら、千冬は病室へ飛び込んだ。

電話で容態が急変したと連絡を受けたのだ。

病室には医者しかいなかった。

両親はまだ来ていないらしい。

千春の容態を見ていた先生は補聴器を外しながら、「落ち着いてください」と言った。

「今、千春さんの容態は最悪な状態です。…良いです、落ち着いて聞いてくださいね」

「……はい…」

落ち着いている、落ち着いているから早く。

ベッドに横たわり、酸素マスクや数個の点滴をつけた千春は荒々しく息を吐いている。

「…千春さんの命は、あと持って数分です。手術も、意味がありません」

つまり…

「つまりこのまま千春が死ぬのを見届けろと!?」

千冬は医者の白衣を掴んだ。

頭では分かっている。

医者は何も悪くないと。

「…っ酷な事にはなりますが、その…」

「………っ!!」

医者が何を言おうとしているかは、分かった。

バッと掴んでいた手を離し、無理矢理大きく息を吸う。

喉が震えているのが、音で伝わる。

「…八つ当たり…すみませんでした」

千冬が頭を下げると、医者は首を横に振った。

千冬は千春の前に立つ。

ついこの間まで一緒に笑っていたのが噓のように、千春はやつれていた。

顔は青白く、唇は青紫色。

体中に、赤黒い痣のようなものができている。

千春の難病の特徴なのだろう。

千春が、死んでしまう。

それだけがグルグルと頭を過って離さない。

「千春…」

千冬が名前を読んだその時、千春の目がほんの薄っすら開いた。

「千春…?千春!!」

それに気づいた千冬は精一杯呼びかける。

「……ち…ふゆ……」

思わず千春の手を握る。

「話さなくていい、良いから…!」

千冬の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

視界がぼやけて、上手く顔を見ることができない。

千春は微かに首を横に振って制した。

「……ありが……と…う……霞…草…をよろし…く…ね…」

そう言って、千春は話すことはなかった。

「千春?」

信じられず、呆然と見つめる。

「……午後七時四十二分十七秒、ご臨終です」

医者が静かに時計を見て言った。

千冬は涙を流しながら、手を合わせた。

そのあとのことは良く覚えていないが、両親が来て色々説明を受けていたことをぼんやりと覚えている。


         ***


それから数日が経ち、霞草と出会ったのは葬式の時だった。

「千冬くん」

「霞草…さん」

振り返った時に見た霞草は、泣きはらしたような顔をしていた。


少し話せないか、と言われ、千冬達は人のいない式場の一室を借りた。

「……千春くんのこと、治せなくてごめんなさい…」

霞草は深く頭を下げた。

千冬は苦し気に眉をひそめる。

「…霞草さんのせいじゃないよ」

本心だった。

誰のせいでもない。

「私も、分かってるの。…でも、でも…!あの日、あの時、もっと力を入れてれば、早く作れていたらって、思うから…!考えて、しまうから…」

”死んだのは嘘だって言って…!”

ドンっと千冬の胸を霞草の拳が叩く。

顔は下を向いていて、見えない。

が、泣いているのが、分かった。

千冬はどうすることもできず、そっと霞草の頭を撫でる。


『霞草をよろしくね』


あの時、千春にそう言われたから。

俺が…俺が支えなくちゃ。

千冬は”マスク越し”にきゅっと口を結ぶ。

あの日以来、表情を出すのが怖くなってしまい、マスクを常時付けている。

最初は…初めて婚約者について兄から聞いた時は、兄を騙す人だと思っていた。

けれど霞草は、この人は、死んでほしくなかったと嘆く一人の婚約者だった。

(あぁ………)

その時、千冬は自分の使命を知った。

”千春”として傍にいることで、彼女を支えなくてはいけないのだと。

悲しみも、怒りも、哀れみもない。

ただ…彼女を守れるならそれで良いと思った。

俺…いや、僕はこれから彼女のために嘘をつく。

自分が”千春”なのだと。

本当は死んでいなくて、全部夢なのだと。

そう、思わせるために。

(…大丈夫。千春の動き、声色、口調…全部頭に入ってる)

千冬はマスクを取る。

そして朗らかな笑みを浮かべ、霞草の頬にそっと手で触れる。

バッと霞草が顔を上げ、目が合う。

霞草の瞳が揺れた。

驚きと、何かに期待するように、大きく。

千冬はそれを慈愛に満ちた様子で見つめ、言った。

「これから”も”よろしくね、霞草」


            ***


回想が終わり、ふーっ…と千冬は長く息を吐いた。

長年秘密にしていた事を吐き出せた安心感と、それを聞いた千里の反応に対する恐怖。

安堵と緊張感で、千冬の体温は熱があるのではと言うくらい熱く、手はじんわりと汗を搔いている。

千里は呆然としていた。

やはり、少しの時間では受け止めきれる話ではなかったのだろう。

それと、千冬と霞草にどう声をかけようか、悩んでいるようにも見えた。

しかし、数十秒経つ頃には、ニコッといつもの明るい笑顔を浮かべた。

「…話してくれて、ありがとう!まさか千冬に兄弟がいるなんて思ってなかったけど…。あえて何も言わない!私は私らしく、いつも通り千冬の傍にいるよ!」

その言葉に虚を突かれたように千冬は目を見開いた。

「……!…千里らしいね」

千冬は涙笑いしていた。

「大丈夫だよ」という心配も、「辛かったね」という同情もなく、ただひたすら「傍にいる」。

それが千冬にとって途轍もなく、嬉しいことだった。

「ありがとう、千里」

千冬は千里に手を差し出す。

千里はすぐに手を握り返し、満面の笑みで答えた。

「どういたしまして!」

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