第31話
30話:ようこそ鈴鳴家へ
「ようこそわが家へー!」
元気に千里ー後ろには弟妹もいるーが、出迎えてくれた。
旗づくりでテスト宣言をされてから、三日後の土曜日。
千冬、日菜子、先輩は千里の家を訪れていた。
その理由は、三日前にさかのぼるーー。
「な、なんでテストが…!期末は終わったはずじゃ…!」
ショックを受けて筆を落とす千里。
筆は千冬が床に落ちる前に、きれいにキャッチした。
日菜子はお~!と感嘆の声をあげている。
「ふっふっふっ。甘いな、千里。確認テストのことは忘れたか?」
「………はっ!!!」
確認テスト、という言葉で、思い出した様子の千里。
確認テストとは、長期休みの間に出された課題に対してどれだけ理解しているかを確かめるためのものだ。
多くの学校で実施されているのではないだろうか。
「でも、三教科…国・数・英だし、問題も基礎的なものばかりだから比較的簡単だと思うよ?」
千冬がフォローするように言う。
「そ、そうですよ!期末考査ほど問題も多くはありませんし、成績にも入りませんし…。そんなに気負いしなくても…」
「それはだめ!確か成績には入んないけど…。できるだけ頑張りたい!んだよね」
「千里さん…!」
日菜子は自身の両手の指を絡ませ、感極まっている。
千里を見る目が完全に、成長しているわが子を見る目だ。
「…じゃ、また勉強会しようよ!今回は先輩も一緒に!」
「賛成!」「いいね」「はい!」
勉強会が決まって、やる気のでている千里に先輩が訪ねる。
「千里んちって土曜大丈夫か?」
「…!はい、大丈夫ですけど…?」
きょとっと千里は目を瞬かせる。
「ん、じゃあ千里んちで勉強しようぜ」
ご利益あるからと意味深に言った。
時は今に戻り、そういう経緯で千冬達は鈴鳴家にきたのだった。
「それにしても千里さんのお隣の神社、あそこも千里さん家のだったんですね…!」
玄関で靴を脱ぎながら日菜子が言う。
「あれ、言ってなかったか。そうだよ!我が家は代々神社の家系なのです!」
どや顔の千里。
「だから言ったろ?ご利益あるって。隣が神社なんだし、真面目に勉強してれば何かしらのパワー、もらえるんじゃねーの笑」
冗談めかして先輩は言った。
「なるほど!」
そんな話をしつつ、四人は千里の部屋に入った。
本棚やベッド、ローテーブル、クローゼットがあり、ところどころにゲームセンターで獲ったであろうぬいぐるみなどが置いてあった。
パステル基調の部屋だ。
千里に言われ、それぞれローテーブルを囲むようにして座る。
千里の隣には日菜子。千里の向かいに先輩、その隣に千冬がという配置だ。
「千里のことだから物ほったらかしにするタイプだと思ってたわ笑」
「失礼ですね~!ちゃんと片付けてますよ…千冬が」
「そうなんですね!千冬くんが…」
「「千冬(くん)が!!?」」
先輩と日菜子が、驚いた様子で勢いよく聞き返した。
「え?うん!良く遊びに来た時軽く掃除してくれるんだ。まぁ私も自分で掃除してるけどね」
それに千冬は出しっぱなしの物を片付けてくれてるだけだよ笑と、なんてことないようにi言う。
千冬と千里にとって、それほどのことではないようだ。
「(これが幼なじみの距離…ということでしょうか…)」
「(分からん…俺にも分からなくなってきた。ただ言えることは…)」
コソコソ小さな声で話す先輩と日菜子。
そういって先輩は千冬の方へ向き直りーー
「…お前、距離の線引きはした方がいいと思うぞ?」
幼なじみでも千里が気にしてなくても、と付け加えて。
「……少し部屋の片付け手伝ってるだけです」
完全否定の千冬。
本人もまあ、龍也の言いたいことは分かっているのだろうが、千里には負ける、と言うことだろう。
「それより勉強しましょう、勉強。雑談はなしです」
逃げるように千冬が言い、ノートと教科書を取り出した。
「ははっ!ま、頑張りますか~」
四人は早速、勉強会を始めた。
三時間後。
「今日は終わりー!疲れた!!」
千里のギブアップの声の元、勉強会はお開きとなった。
帰りの支度をして、玄関に来ている。
「おつかれ、千里。頑張ったね」
「おつかれ!…というか先輩があんなに勉強できたなんて!裏切り者!!」
「失礼なお嬢さんだな!?俺は千里と違って勉強できます笑!一応教師目指してるしな」
こつんと軽く千里の頭を叩く。
「教師!いいですね~でも、ちゃんと教えられるんです?」
いたずらっぽく千里が尋ねる。
「任せとけ。…というか、お前は俺に教えてもらってただろーが!」
「確かに笑」
軽口を言い合った後、先輩と日菜子は挨拶をして帰っていった。
残ったのは、千冬と千里だ。
「…楽しかったね、千冬。私みんなとできたのすごくうれしかった!」
「…そうだね。また頑張ろう」
二人はそう言って笑いあった。
***
「先輩!見てください!いい点取れましたよ~」
「…お、よかったじゃん」
後日、テスト結果に喜ぶ千里に先輩は花丸をあげたという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます