第30話

29話:体育祭準備


「夏休み明けで早速だが、もうすぐ体育祭だ。その準備係をお前らで決めろ」

黒板に、『体育祭係決め』と書きながら、私たちの担任こと、木藤恐音が話す。

そして、委員長・副委員長に後は任せたというように肩をポンと叩くと、黒板横の椅子にドカッと座った。

自分は、干渉しないつもりらしい。

先生は「生徒(お前ら)が一から考えて行ってほしい」と言っていたが、本当はただ面倒くさいだけなのではと考えてしまう。

…先生の性格だけに。

「…おめーら、余計なこと考えてねーでさっさと終わらせろよ?」

まるで、心を読んだかのような発言。

「…で、では早速決めていきたいと思います」

委員長の津々見くんが苦笑いを浮かべながら、教卓の前に立つ。

その後ろでは、副委員長の若葉さんが係をスラスラと書いていた。

大道具係、放送、救護、審判、誘導などなど。

係だけでなく、自分たちの出場する種目も書かれていた。

クラス対抗リレーもあるからである。

(入学してから初めての体育祭…!何やろー!)

千里は目をキラキラさせながら、津々見くんの話を聞く。

今、ちょうどこの係は何をするのかという説明をしている。

千里は、隣の席の千冬に小声で話しかける。

「…ね、千冬はなにかやる?」

「俺は係が余ったらやるかな。…千里はその言い草だと何かやりたいやつがあるの?」

「お、さすが千冬!…実はね、あれがやりたい!」

千里が指さしたのは、旗の制作係。

良く、応援団で使うようなやつだ。

チームでもあるのだが、それはチームごとに別れた時に決めるので、また別の話だ。

ちなみに、クラスで旗係をした者はチームの旗係はできない。

「…じゃあ俺もそれやろうかな。千里とやるなら楽しそうだし」

さらっと胸キュンセリフを吐く千冬。

その顔は、好きな子を見る楽しそうな表情だ。

「私も!千冬がいたらなんだって楽しい!」

千里もニコッと笑う。

(なんだ、あの二人の甘酸っぱい雰囲気は…!)

(いやー!千冬くん、まさか鈴鳴さんのこと…!まだ青春は始まってないのに…)

(早まるな、楡井~!)

千里達二人の会話で、クラスが沈黙の中、静かにザワザワしたことは、言うまでもない。

恐音先生は、静かに腹を抱えてツボった。

「てことで私と千冬、旗係やる!…あ、日菜子もやろー!」

その声で、自然と視線は日菜子に行く。

「は、はい!」

日菜子は、緊張した声で頷いた。

「…じゃあ、みんなもそれでいいね?」

津々見の一言で満場一致で決まり、若葉が旗係の文字の下に、名前を書いていった。


***


その後も順調に係は決まり、クラスはすっかりやる気に満ちていた。

チーム分けも決まり、今にも戦いそうな雰囲気である。

「…あ〜あ〜私達、チームは別れちゃったね!」

少し残念そうに語る。

「そうだね」

「残念ですね…」

千里は赤、千冬は青、日菜子は黄である。

学校のモチーフ色だ。

言うならば、ネクタイと同じ色である。

見事、全員別れてしまった。

今は旗係の仕事をするべく、被服室に向かっていた。

「ま、しばらくの間みんな一緒に作業できるからいっか!」

「はい!」

「頑張ろう」

そう話しているうちに、早くも被服室についた。

「しっつれーしまーす!」

ガラリッ

千里が元気よく扉を開けた。

もうすでに何人かが作業に取り掛かっており、わいわいと楽しそうに話している。

ほとんどが、クラスや学年が違って知らなかった…が、窓際に一人、見知った顔が見えた。

「先輩!?」

「あれ、千里じゃん。…日菜子ちゃんもいる!やっほ」

千里の後ろにいる日菜子を見て、先輩は露骨に嬉しそうな笑みを浮かべ、手を振る。

日菜子は、小さく手を振り返した。

(手、振り返す日菜子ちゃんかわ…)「なー日菜子ちゃん何色!?チームの!」

心で尊死しつつ、先輩がテンション高く、少し緊張気味に尋ねる。

「黄色ですよ」

「…えッマジ!?よっしゃ、一緒だ!」

嬉しそうに、ガッツポーズをしている。

「同じチームとして頑張りましょう!」

二人は仲良くハイタッチした。

少しだけ、距離が縮んできたといえよう。

そこへ、千里も話に加わった。

「私が来た時も嬉しそうに歓迎してくださいよー」

千里が冗談交じりに言う。

「じゃあ、俺に嬉しそうに歓迎されてうれしいか?」

『千里!待ってたぞ』

「いや、まったく」

『嬉しそうに歓迎する先輩』を想像した千里だが、なぜだか無性に寒気がして、即否定する。

「ひでー(笑)」

先輩も冗談だと分かっているのか、笑っている。

「…先輩も旗係なんですか」

千里と先輩の会話を遮るように千冬が尋ねる。

心なしか、拗ねているように見える。

龍也はそれに気づき、ニヤリと笑って千冬の肩に腕を乗せる。

「なんだよ~?お前、意外と嫉妬深いんだな」

「…余計なお世話です。それより早く作業に戻ったほうが良いんじゃないですか?」

千冬は談笑しながらも、黙々と作業をする先輩達に目を向ける。

「…あ、忘れてたわ」

ガチで忘れていたらしく、慌てて作業場へ戻っていく。

「わりー、後輩とあって話し込んでたわ」

「龍也話しすぎwこれ手伝えし」

「はいはい」

なんだか、同級生と話している先輩は珍しい気がする。

「さ!私たちもやりますかー!」

気合を入れる千里。

「おー!」

それに合わせて、二人も声を上げたのだった。


       ***


「やっと構図描けたー!」

ん~と、千里は思い切り伸びをした。

開始してから約一時間。

なんとか構図を完成することができた。

教室での係を決める際、予想以上に時間が余ったので、クラスみんなで構図をあらかた考えていたのである。

そのおかげか、スムーズにとりかかることができた。

今日で完成できそうである。

「すごく立派です!これは優勝間違いなしです」

日菜子は旗を見ながら、感嘆の声を上げる。

千里達が描いたのは、大きな龍。

理由は、『強くてかっこいいから』。

実に単純である。

旗1面、真ん中に大きく描かれた龍は、迫力満点だ。

「…みんなそれぞれの絵柄がでてるね」

「確かに!」

三つに分割して描いたのだが、頭担当の千里は龍を知らなかったのだろうか…。

そんなことを連想させる絵だ。

要するに、下手。

他二人は、上手いといえよう。

上手く特徴を掴んでいる。

千里は、とても満足そうだ。

「早速塗っていきましょうか」

日菜子が、絵の具セットを持ってくる。

中はとてもきれいだった。

「ありがと!日菜子」

「いえいえ」

「龍なら青系の緑かな…」

千冬が、青や緑の絵の具を取り出し、パレットに出していく。

それを少し水で濡らした穂先に付ける。

ほかの紙に試し塗りしながら、ぺたぺたと一部分塗った。

「わ!千冬すごい!私もやる〜」

「じゃあこの筆あげるよ」

千冬は先ほどまで使っていた筆を千里に渡し、新しい筆を取り出した。

日菜子は、しっぽの部分を丁寧に塗っている。

こうして、しばらく集中してぺたぺた塗っていたわけだがーー。

「…千里、頬に絵の具着いたよ」

「えっ」

千冬が、絵の具の着いた千里の頬を優しく拭う。

「ふふっ。千里さん、服にもついてますよ」

日菜子は面白そうに微笑んだ。

「…えっほんと!?わーお母さんに怒られる…」

その一言に、2人は苦笑いする。

「…で、でも!体育祭があるもんね!」

自分に言い聞かせるように言う。

楽しい行事を思い出して、忘れようとしているみたいだ。

「何言ってんの、千里笑」

笑いながら話に入ってきたのは、先輩だった。

「先輩?」

千里が不思議そうに首を傾げる。

「体育祭の前にテストあるけど?」


「…………え、??!」

千里だけが、知らないと言うような、反応をするのだった。

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