第29話

28話:仲直り作戦2


「千里さん、仲直りしたいみたいです…!」

「…お、奇遇。千冬もそーみたいだぜ」

近くのファミレス。

日菜子と先輩は、お互いの結果報告をしに、放課後ファミレスに立ち寄ったのだった。

報告とは、もちろん千里と千冬の件である。

「…にしても、なげー喧嘩だよなぁ」

透明なグラスに入っている、コーヒーをクルクルストローで回しながら、呟く。

片手は肘をつき、リラックスしている。

「そうですね。でもお2人とも、優しいですから、大丈夫です」

日菜子の言葉は、心からの信頼を感じる。

「…ふっ」(日菜子ちゃん女神)

心で尊さを感じる中、ふっと笑いが込み上げる。

日菜子の言った『優しい』で、昨日の千冬の言った言葉を思い出したのだ。

顔を机に埋め、肩を震わせる。

「…ど、どうしたんですか?」

日菜子が、突然ツボった龍也に、困惑の表情を見せる。

「…いや、ちょっと思い出し笑い。…それよりアイツらどやって仲直りさせるんだ?」

笑った拍子に少し頬にこぼれたコーヒーを拭きながら、龍也は尋ねる。

「…それは…」

日菜子が言いかけた時。

「お待たせしましたー!」

元気な声で、店員が料理を運んできた。

日菜子が選んだサンドイッチと、先輩のポテトだ。

店員が去った後、日菜子はすぐ言葉を続けた。

「…それは、料理です!先輩」

「料理?」

ポテトをつまみながら首を傾げる。

「はい!先輩、覚えてますか?初めて会った時のこと」

「そりゃもちろん。俺が一目惚れしたからね」

そう言うと、日菜子の顔はたちまち赤くなる。

一応、告白でOK(仮)をいただけたので、これからは(も?)遠慮なく落とさせてもらう。

「…そっそれで、千里さんがその時に、『ご飯で笑顔』と言っていたのを思い出したんです」

顔を赤くしながらも、日菜子は話を続けた。


『…ごはん、美味しいものって笑顔になるんです。だから、食べたらきっと先生もまた明日は笑顔になってます!』


龍也も、あの時の千里の言葉を思い返した。

確かに、あの時は幼稚な根性論だと思っていたがー。

「…アイツらはまだクソガキだからな。根性論くらいがちょうど良いか!」

日菜子は先輩の言葉の意味が良く理解できなかったのか、?マークを浮かべるが、賛成されたと判断したらしく、笑みを浮かべている。

「…いっちょお兄ちゃんが助けてやりますか〜」

ポテトをかじりながら、愉快そうに龍也は笑った。


***


「…日菜子、日菜子」

小声で千里が、隣にいる日菜子を呼ぶ。

日菜子は、顔を千里の耳元に寄せた。

「仲直りで、なんでここ?」

千里達が来たのは…そう、ミスター・コロンボだ。

ミスター・コロンボとは、千里達の町にある、老舗の洋食屋だ。

日菜子の事情聴取から数日後。

放課後、千里達は仲直りすべく、日菜子に言われここに来たのだ。

「…それはまだ内緒です。何食べますか?」

ニコッと微笑んで質問を交わすと、何食べますか、とみんなに問う。

「俺はコロッケ定食〜!千冬は?」

「俺は…」

「…千冬はオムライスでしょ?」

千冬が言うのを遮る声が聞こえた。

千里だ。

恥ずかしそうに…頑張って発言したような声だ。

いつもの千里には、あまりない。

「……うん。千里はハンバーグでしょ、目玉焼き付きの」

「…正解…」

((おぉ…!会話出来てる…!))

感動する先輩と日菜子。

大変ぎこちないが、それでも久しぶりの会話である。

(…と言うか、お互いの食べるもの把握してるんですね…!)

(さすが幼なじみってことじゃね?)

目配せで会話を日菜子達はした。

その時ちょうど店員が通りかかり、注文もした。

後は、料理が届くのを待つだけである。

「「「「…………。」」」」

誰も話さない。

日菜子と先輩は、2人の会話を邪魔しないように、千里はこれから仲直りすると言うことで謎の緊張、千冬は元から自分から会話する質ではない。

それにより、いつもの倍くらい静かだった。

気まずい空気が流れ、みんなどうしようか考えている合間に、料理が運ばれてきてしまった。

そのタイミングで、日菜子が口を割った。

「…それで、その、今日呼んだのはただご飯を食べたかったからじゃありません!」

「そーそ、なんだっけ?アホ千里が言ってた『ご飯で笑顔』をやるためだよ」

「…誰がアホ千里ですか〜」

ジト目で先輩を睨む。

「…とりあえず、ご飯を食べて和んで、大切な話はそれからしよう、てこと?」

「そうです!」

千冬が上手くまとめる。

日菜子はうんうんと頷く。

「…とりあえず、喧嘩したと言うことは忘れませんか?そう簡単には行かないと思いますが…。腹が減っては戦ができぬ、とも言いますし、目の前の美味しい料理を楽しみましょう!」

日菜子はそう言って、頼んだマカロニグラタンを美味しそうに口に運ぶ。

「……私も食べる!」

「俺も〜美味そっ」

「…いただきます」

日菜子の言葉をきに、いつもの明るい口調でそれぞれご飯を食べ始める。

日菜子が視線を上げると、パチッと先輩と目が合った。

先輩は、小さく親指を立てる。

日菜子は小さく微笑んで、先輩と同じように指を立てた。

「…あ、おい!千里、エビフライ1本取るな!」

「なんのことでしょ〜」

目を合わせない千里。

「その気なら俺にもハンバーグ寄越せ!」

「あー!私のハンバーグ!」

「知らね〜笑」

久しぶりに4人の明るい会話が響いた。


***


「…それではこれから仲直りを始めます!」

日菜子が水を1口飲んで言う。

「俺ら、外行ってた方がいい?」

先輩が、腰をあげる。

「…いえ、迷惑かけちゃったの、事実だし、聞いておいて欲しいです」

「俺も千里と同じ意見」

その言葉を聞いて、千里が大きく深呼吸する。

そして、ゆっくりと話し始めた。

「…花火大会の時、千冬が知らない人と会ってて。それは良いの。けど、あの時の千冬は別人に見えた。それで、怖く?なっちゃったんだ。」

「うん」

「…秘密にしてたこととか、『何でもかんでも話すわけじゃないよ』って言われた時、突き放されたみたいで悲しかった。…後は、仲良さそうにしてたから、その、ちょっと…うーん…モヤっとした?たぶん、そう」

「…うん」

頭の中を整理するように、千里は話す。

千冬は、千里の話を時々頷きながら、真剣に聞いていた。

「上手くまとめるとね、全部話さなくても良いから…話せるとこだけでも話して欲しい。千冬、1人で抱え込むから。私は、千冬の口からなんでああ言ったのか、聞きたい!」

そう言い、千冬を真っ直ぐ見た。

千冬はしばらく驚いた様子だったが、今度は自分の番と言うように、話し出した。

「…正直に言うと、あの時あった人の事は話したくない。冷たく言ってしまったのは、ほんとにごめん。」

千冬は頭を下げた。

「…それは…もうずっと話してくれないってこと?」

千里は、少し悲しそうに視線を逸らす。

「…そう言うわけじゃないよ。俺が、いつか話したくなった時…その時、千里に聞いて欲しい。いつになるかは分からないけど、絶対話すって約束するから」

千冬は、小指を千里の前に差し出す。

「…うん、うん!分かった、待ってる!」

千里はしばらく考え込んでいたが、やがて嬉しそうに笑い、千冬の小指に、自分の子指を絡めた。

『指切りげんまん』のポーズだ。

数秒して、どちらかともなく指を離す。

「…日菜子もごめん、先輩も。もう大丈夫だよ!」

「…迷惑かけてごめんね、松村さん。…あと先輩」

「…い、いえ!千里さん達が仲直りしてくださって、嬉しいです」

「なんか俺、後付けされてない?」

先輩は自分の顔を指で指す。

「そんなことないですよ〜」

露骨に千里が視線を外したと同時に、千里のお腹が小さくなった。

さきほど、食べたばかりなのだが。

「…あ、そう言えば千里、食後のデザート食べてなかったね。いつものプリンで良い?」

「うん!ここのプリン固くて美味しいんだよね〜。千冬のチーズケーキと半分こしよ!」

「…ん、分かってるよ」

仲良く注文を始める2人。

つい数日まで喧嘩していたのが嘘みたいだ。

((…なんか、ほっといても仲直りできた気もするけど…まぁいっか))

呆れた笑いがこぼれる。

「…俺らも忘れるなよな〜。俺はジェラート!」

「わ、私はショートケーキがいいです!」

2人は、慌てて店員にデザートを頼んだ。

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