第28話

27話:仲直り作戦1


「さあ、話してもらいましょうか…!」

日菜子がずずいと千里に顔を近づける。

千里は苦笑いを浮かべた。


時は、数十分前に遡る。

「日菜子~!宿題見せて!」

泣きべそをかきながら、ノートを広げる。

「…松村さん、この後の授業のことだけど…」

千里と千冬が同時に話しかけてくる。

だが、話の内容通り、二人は別々の話をしている。

二人が喧嘩してから、日菜子はずっと『聖徳太子』状態だった。

間に挟まり、仲を取り持っていた。

だが…

「…いっ良い加減にしてくださいー!」

とうとう、怒ってしまった。

ただ、それは怒りなれていない人の怒りで、あまり𠮟責の意味はない。

千里と千冬はそれぞれ会話をやめ、驚いた様子で日菜子を見ている。

「二人とも、喧嘩を長続きさせすぎです!…ば、ばかですかー!」

またもや、日菜子から絶対聞きなれない言葉。

それゆえ…

「ば、ばか…」「………。」

ほんわか癒し系…純粋な日菜子に言われると、何か『くる』ものがあったらしく、二人とも静かにショックを受けた。

周りのクラスメイトも、日菜子が怒るところが珍しかったのか、「松村さんが怒ってる」「珍しい」と言う視線で三人を眺めている。

シーーン…と静まり返った教室に我が返ったのか、日菜子はハッとして、

「今日は放課後、事情聴取です!強制です!いいですね!?」

顔を赤くしながら、半ば強引に話を終わらせた。

「「は、はい…」」

二人とも、反論の余地もなく、答えるのだった。


その日の放課後。

教室には、千里と千冬、日菜子の三人しか残っていない。

逃げようとしたが、日菜子にがっちり捕まった二人である。

「…こほん、話は一人ずつ聞きます。千冬くんは図書室にいってください」

「分かったよ」

なぜ図書室?と疑問に思った千冬だが、空気を読んで何も言わない。

そのまま鞄を持って、教室を出た。

教室は、二人になった。

日菜子は千冬の背を見送り、千里の方を振り向く。

「さあ、話してもらいましょうか…!」

そして、冒頭に戻る。

意気込んだのは良いものの、日菜子はこれからどうしたらいいか分からなくなった。

元からこういうのは苦手なので、我ながらここまでよくできたものだと感心する。

その場の勢い…というのだろうか。

とっさに、声が出ていた。

「…とりあえず、座ろっか!」

「は、はい!」

千里が気を使ってか、そう呟いて、椅子に座る。

日菜子も、千里に向かい合うようにして座る。

「…ん〜と、何から話せばいいのか分からないけど…」

千里は、とりあえずこれまであったことをもう一度全て話した。

簡潔にせず、ゆっくりと。

「……。」

話終わって日菜子を見ると、日菜子はコメントせず、次の言葉を考えている。

「…つまるところ、千里さんは千冬くんに秘密にされて悲しかったと…?」

「…ん、それもあるんだけど、『何でもかんでも千里に話すわけじゃないよ』って言われた時、ショックだったの。…幼なじみだから、何でも話して頼ってくれてるって思ってたから」

千里は、自分の頭の中で思う事を、整理しながら話す。

「…あとは、前に話したように、1番の友達だと思ってたから、その…」

「…その?」

日菜子が首を傾げる。

「…私より仲良さそうって思っちゃって」

頬をふくらませ、少し拗ねた様子で千里が呟く。

(…千里さんかわいい…)

悩みが恋する乙女だ。

すぐに日菜子はハッとした。

(千里さんが真剣に悩んでるのに、その感想は行けません!私!)

首を横に振り、大きく何回か深呼吸した後、言葉を口にする。

「…きっと、千冬くんも真剣に向き合おうと思ってると思います。それに、お二人の仲の良さは私と先輩が1番良く知ってます!わ、私も一応、千里さんのと、友達…ですので!」

『友達』

自分でそう言って、急に恥ずかしくなってきた。

こうやって宣言したのは、初めてだ。

「…ふふ。ありがと、日菜子」

にっこりと、嬉しそうに千里は微笑む。

「それで、千里さんはこれからどうしたいんですか?」

真面目な質問になり、千里はキュッと口を結ぶ。

1呼吸置いて、千里は口を開く。

「…仲直り、したい」

「では、そうしましょう」

日菜子は優しく笑った。

「でも、どうやって?」

少し心配そうに、千里が尋ねる。

「…私に案があります!」

任せてください、と日菜子は軽く胸を叩いた。


***


「お、主役のおでましだ」

「…なんで先輩が…」

茶化すように言う先輩に比べ、ある程度予想はついていたようだが、呆れたように呟く千冬。

先輩は、眼鏡をかけ、本を読んでいる。

「なんでって、そりゃお悩み相談会だからさ」

本を閉じて、パチンッと人差し指を千冬に向ける。

器用に、ウィンクもして見せる。

謎に、無性に腹正しさを覚えながら、先輩の隣に座る。

「…さて、主役も来たことだし、やっていきますか〜」

ゆる〜く『お悩み相談会』が開催された。

「…その主役って言い方止めてください」

謎にむず痒い。

「ごめんごめん。……千冬、」

茶化した時とは違う、真面目な顔を先輩は向けた。

いつの間にか眼鏡は外していた。

「…好きな子いるのにあんな会い方したらだめだろ〜。秘密にすんなよな」

気軽に話させようとしているのか、また茶化すような口調で先輩は言う。

「先輩もそれですか。ふざけてるなら帰りますよ」

よほど話したくないらしい。

「…ふざけてない。茶化すように言ったのは悪かった。だけど、お前らがずっと喧嘩してるとこっちも迷惑なんだよ」

怒らず、静かな口調だ。

「……。」

今朝の日菜子の事を思い出したらしい。

迷惑をかけていることは理解しているらしく、反論しない。

「…千里は今、日菜子ちゃんと話してる。たぶん、仲直りしたいって言ってくると思うぜ?」

そうだろうな、と千冬は思う。

千里はそういう子だ。

「…まぁ、その。話してた女子とお前がどう言う関係かは知らねぇよ?複雑そうなのも見てて、聞いててなんとなく察してる。千里だって、薄々内心は気づいてるだろ。…脳に感情が追いついてないだけで」

だけど、と言葉を続ける。

「全員が全員、『千冬が別人みたいだった』『はぁ、そうですか』ってすぐ納得出来るわけじゃねーんだよ。千冬だって、すぐに、簡単に説明できないだろ。だから、とりあえず!千里の思いを全力で受け取れ。一言一言、胸に染み込ませろ。それで、千冬もどうしたいか、どうするか話せ!それでおあいこだ」

ま、後は話したくなったら話せばいんでねーのと、後ろ頭を両手で支えながら言った。

「………。」

千冬は、またも無言だ。

「…え、ごめん。熱く語りすぎた?それとも俺が頼れるイケメーー」

「…思ったより、先輩しててびっくりしました」

感心したように呟く千冬。

「おい、それ馬鹿にしてない?」

先輩は苦笑いをうかべる。

「馬鹿にしてませんよ、褒めてます」

千冬は薄ら笑う。

「…優しいな〜」

もう半ば投げやりに先輩は言った。

「…じゃ、俺はもう帰りますね。…あ、あと、」

「ん?」

「…俺、そんな優しくないですよ。意外とクソガキですから」

そう言って、先輩を待たず図書室を後にした。

「"意外と"か〜。…嘘つけ笑」

お前は結構良い性格してるよ、と鼻で笑った。

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