第27話

26話:初めての体験


(ハンカチ良し、カード良し、服も…ばっちりだな…!)

カバンの中を確認しながら、心の中で呟く。

時刻は午前9時45分。

緊張のあまり、少し早く来すぎてしまった。

緊張もあるが、嬉しさのほうが勝る気がする。

ソワソワする…まるで腹をすくわれているような、でも不思議と嫌な気持ちはなく、心地良いような、そんな不思議な気持ち。

本気で好きな人ができると、こんな気持ちになるのか、と深く納得した。

「…て、恋する乙女かよ」

自分で自分の思ったことに、思わず突っ込む。

いや、まあ合ってると言えば合っているのだが。

自分がこんなにも悩んだり、ソワソワする人間なのだと、初めて気が付いた。

何だかこそばゆいような、嬉しいような。

「…俺も人間ってことかねぇ」

そう、呟いた時。

「お、お待たせしました…!」

可愛らしい声が前から聞こえた。

「あ、日菜子ちゃ、ん…」

思わず、固まってしまった。

目に映ったのは、ふわふわの白いワンピース。

夏でも着れる、桜色のニット生地のベスト。

髪はいつものみつあみでは無く、たらされており、ヘアピンが横に留めてあった。

いつもと同じと言えるのは、眼鏡だろうか。

やばい、天使すぎる。

「やばい天使すぎる…」

「て、天使…?」

困惑した声でハッとする。

声が駄々洩れすぎた。

「…や、今のは気にするな!それより、早く行こっか」

「……!は、はい!」

日菜子の緊張した声が響いた。


***


「ここがあの夕日野動物園…!」

目をキラキラさせながらつぶやく日菜子。

俺達は、バスで15分ほどの夕日野動物園に来た。

外観は最近工事したからか、とてもきれいで、たくさんの種類の動物もいる。

中には、他の園にはいない動物のいるとか。

その他にも、触れ合いイベントや、お土産、園で食べられるご飯も充実している。

そのおかげか、ちびっ子だけでなく、大人や、若い人に人気なのだ。

俺は、受付で貰ったマップを日菜子ちゃんと一緒に見ながら、どこに行こうか考える。

…本当は、地図なんて見なくても良いのだが。

(なんせ、昨日の俺は園と言う園を隅々まで頭に叩き込んだからな…!)

日菜子ちゃんをスムーズに行きたいところへ連れていくべく、努力した。

(…ま、当たり前のことに”努力”とはおこがましい気もするが…)

と、ドヤ顔で頷いていると。

クイッ。

軽く、袖を引っ張られた。

振り向くと、上目遣いで見てくる日菜子ちゃんの姿があった。

龍也は掴まれた袖と、日菜子を交互に信じられない目で見つめる。

「わ、私動物園に来たの、初めてなんですが、どこから回りましょうか…!」

楽しそうに、ニコニコとほほ笑んでいる。

私は特に白熊が視たいんですけど、と言う日菜子の続きの声は龍也には聞こえていない。

(…ああ、神様仏様、今日と言う素晴らしい日を過ごさせていただいてありがとうございます。袖くいやばい、心臓止まりそう、もう止まったかも…)

神様に感謝したり、心臓が止まりかけたりと、心のは大渋滞だった。

どうやら俺は、好きなこの前ではてんぱるタイプらしい。

「…近いとこから順にみていこうか…」

「はい!」

なんとか一言だけ声を発し、日菜子とのデートは幕を開けたのだった。

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