第26話

25話:デートのお誘い


『日菜子ちゃん、俺とデートしない?』


ど、どうしましょう。

私、松村日菜子は戸惑っていた。

枕を両手で抱えながら、ベッドでごろーんとして先輩とLINEをしていたところ、突然先輩からそんなお誘いが来た。

突然の事に、あまりの驚きで飛び起きる。

顔が耳まで赤くなるのが分かる。

(…初めてです…デ、デートのお誘いをされました…)

今さっき送られた、先輩のメッセージを食い入るように見つめる。

既読を付けたからには、早く返信しなければ、と思うのだが、文章が思いつかず、なかなか返せない。

「…こ、こう言う時どうやって返信したら良いんでしょう…!」

頭が真っ白。

あわあわと文字を打ったり、消したりする。

「…日菜子ー?もうすぐご飯よー」

「……ひゃっ!」

突然、下から声が響いて、驚きで危うくスマホを落としそうになる。

なんとか手で取り、深呼吸をする。

1回返信を考えるのを止めたからか、頭が冷静になってきた。

『私でよければ!』

お願いします、のスタンプも付けて。

ちゃんと返信する事ができた。

『マジで!?よっしゃ!』

『じゃ××駅に10時集合な〜』

と、返事待たずすぐ先輩からメッセージが届いた。

(もしかして、ずっと待ってたのでしょうか)

それなら申し訳ないことをしたな、と日菜子は思いながら、スマホを置いて1階に降りた。


***


「……よっしゃぁぁ!!」

俺、風柳達也は、ガッツポーズをした。

あまりの喜びに、心臓がバクバクと聞こえるくらい音がなり、身体中が熱い。

「…竜也うるさいんだけど〜?」

「ごめんって」

廊下を通りかかった姉に怒られたが、頭は嬉しさでふわふわしていた。

ベッドに寝転がり、もう一度メッセージを見てみる。

『私でよければ!』

大丈夫。

ちゃんと、何度見てもそう書いてある。

花火大会で告白してから、初めて2人だけで遊びに行く。

(これ、めっちゃいい流れじゃね!?)

ただいま、テンション爆上がり中の龍也は、メッセージを見ながらゴロゴロ回転する。

好きな人からデートをOKされる事が、こんなに嬉しいなんて。

にまにまと口が緩む。

(日菜子ちゃん、デート服何着るのかな〜)

ロングワンピに、デニム生地のジャケットを着た日菜子。

花柄ワンピを着た日菜子。

いつもと違って、パンツスタイルでかっこよく決めた日菜子。

どれを想像してもかわいい。

(…やば、想像するだけで楽しい)

今の竜也の脳内は、自分が完璧にエスコートし、楽しくデートしている妄想で頭がいっぱいである。

…ちょっとラブハプニングも入れて。

「…くっそ楽しみすぎるっ!」

「だから龍也うるさいわよ〜」

バンッと扉を開けられ、2度目の叱責。

「…すまねぇ……ふっ」

謝るが、すぐににやけてしまう。

「…え?何、気持ち悪いんだけど…」

姉は、引き気味に龍也を見る。

「気持ちわりぃって失礼だな。俺は今幸せいっぱいなんだよ。」

用事ないならはよ帰れ、とシッシと手で払う。

「幸せって何よ〜。…見せてよっと」

「おい」

ヒョイっとスマホを取られる。

取り返そうと手を伸ばすが、簡単に躱される。

「…えっ!?竜也彼女いたの〜!?」

姉は驚きの声を上げる。

「わりぃかよ、…てか、彼女じゃねぇし」

「…片思いなのね、可哀想に」

よよよっと腹立つような同情の顔を向ける。

「そーだよ、俺が好きなの。…今はね」

「訳ありだー!」

目をらんらんとさせる姉。

これはいかん、と龍也は思った。

姉…姉2人のうち、次女の方の、風柳 鳳蝶は、大の恋バナ好き。

このままでは、止まらなくなってしまう。

「…これからデート服考えるから早く行ってくれよ」

「デートかぁ」

姉は楽しそうだ。

「…へっ」

満更でもなさそうに…めちゃくちゃニヤニヤしながら達也は笑った。

「でも龍也、珍しいわねぇ。昔は派手な女の子取っかえ引っ変えしてたじゃないの」

「取っかえ引っ変えとは失礼な。来る者拒まず。あっちから振ってきたっつーの」

そう、俺は日菜子ちゃんに恋するまで、告白されたらOKしてきた。

だが、必ず女子の方から振っていく。

俺は付き合っている間は、精一杯向き合って付き合っているが、本気で誰かを好きになったことは無かった。

だからこそ、日菜子ちゃんは大切にしたいのである。

「…ふふっほんとに楽しそうねぇ。その子、大切にしなさいよぉ」

なんか、良い子そうだし、とスマホを返しつつ龍也に言う。

「言われなくてもわかってる!」


***


((…デート、か…))

日菜子はご飯を食べながら、龍也は服を考えながら。

((…楽しみだな))

2人は、それぞれ微笑んだ。

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