第25話

24話:気まずい夏休み


(………気まずい…)

蝉がうるさく鳴く中、千里はボーッと寝そべっていた。

隣にはスイカが置いてあるが、食べられず放置されている。

いつもの千里なら、あっという間に平らげるのだが…。

千冬と喧嘩したここ数日、そんな気になれなかった。

なぜ、自分がここまで引きずるのかさえ分からないので、更にモヤモヤしているのだった。

そしてそんなモヤモヤを表すように、千里の頭上に影が入る。

「ちーちゃん、なにしてりゅのー!」

「姉さん、大丈夫?」

その影の正体は、真上から見下ろす三矢と優だ。

「…大丈夫!あ、三矢スイカ食べる?優も」

私は今いらないから、と皿を差し出す。

「食べゆー!」

すると、三矢は嬉しそうにスイカにかぶりつく。

頬に汁をベタベタにつけるため、優が自分も食べつつ、定期的に三矢の頬を拭っている。

「…私ちょっと出かけてくる!」

そんな様子を千里は微笑ましく思いながら、出かけた。

玄関で靴紐を結んでいると、優が話しかけてくる。

「…姉さん、気をつけてよ。なんか、ボーッとしてるみたいだから」

「分かってるって!…心配かけてた?ごめんね」

これ以上心配させないように笑顔を作って千里はドアを開けた。

「…ほんとに分かってるかな…」

優の心配そうな声だけが、玄関に響いた。


「…せっかくの夏休みなのになー…」

ポツリ、と千里はため息をこぼす。

特に行くあてもなくブラブラと歩く。

仲直りしたい…とは思っているが、どうしたら良いか分からない。

実質、千冬と喧嘩をした事がないからだ。

喧嘩する理由もなかったのもそうだが、千冬が大体先に謝って何も無かったことになるのである。

子供の頃から大人な千冬であった。

それに、仲直りしたいと思っていながらも、千冬に会わないように避けている自分もいるのだ。

先が長くなりそうで、千里はまたため息を着く。

気がつくと結構長く歩いていたらしく、家から少し離れたコンビニまで来ていた。

「…良し!なんかアイスでも買って帰ろ」

少しでもテンションを上げるために、アイスを買うことを決意する。

買えるぐらいのお金があることを確認し、入店する。

暑い夏に、アイスの入ったボックス辺りはひんやりしていて気持ちいい。

冷房も効いているので、尚更だ。

棒付きの、ラムネ味のアイスを手に取ってレジに並ぶ。

ウィーン。その時、

「…あ、」「え、…」

見知った顔2人に出会った、千里なのであった。


「…先輩と日菜子じゃないですか〜なんでここに?」

早速アイスを口にしながら、千里は尋ねる。

今は買い物をし終わり、駐車場の隅で話している。

「俺達は夏休みどこで遊ぶか話し合っててな…」

口の端を上げて、ニマニマ幸せそうにしている先輩。

「それで一通り話し終わったので、なにか軽く食べようと言う話になったんです」

先輩の言葉を、日菜子が繋げる。

花火大会以降、2人は順調のようだ。

「…なんか、2人とも仲良くなってない?なにかあった?」

「…お!ようやく気づいたか、千里…。実はな…」

「あ、長くなりそうなら遠慮します」

遠い目をして、片手で制する千里。

「…待って!まだ何も話してないから。手短に話すから聞いて」

本当に先輩は簡潔に話した。

要点だけ説明する、分かりやすい説明だ。

さすが頭が良いだけある。

「…えー!?先輩、日菜子と友達になれたんですね!2人が仲良くなって嬉しいです!」

話を聞いた千里は、ニコニコだった。

…告白については、ちゃんと理解したかは分からないが、まぁ大丈夫だろう。

その反応に先輩はドヤ顔だ。

「ふっさすが早川学園一のイケメンなだけあるぜ…」

顔に手を添えて、自慢気に笑った。

「確かにそうでしたねー」

棒読みで話を聞く千里。

千里の中で先輩のこういう所は適当枠に入ったらしい。

日菜子も笑っていたが、やがて千里を心配するように見た。

「…何かあったと言えば…千里さんはその、あの時何があったんですか…?」

あの時、とは花火大会の事だ。

教室の気まずさから、何かあったのだと察した日菜子は、勇気をだして聞くことにした。

千里は話したことに驚いたものの、決意したかのように、グッと唇を噛んだ。

いずれ、分かること。話さなければいけないことだ。

「…上手く話せないんだけど…」

千里はたどたどしくゆっくりと花火大会で見た事、喧嘩した事を話した。


「…千冬くんと喧嘩を…」

「……ソイツって…」

驚く日菜子と、何か心当たりがあるらしい先輩。

「先輩、千冬と会ってた人、知ってるんです?」

なんで言ってくれなかったんだ、と目で訴える千里。

「…いや、俺も1度しか見た事ないしな…」

「そうなんですか…。千冬と仲良さそうだったから…誰…?」

しゅんとする千里。

少し、拗ねているようだ。

そんな千里を見て、先輩と日菜子は同じことを思った。

((…あれ、そう思うってことは…))

無意識のうちに、千里の心に変化がーー?

「…私の方がずっと長くいる幼なじみなのに!隠し事だけじゃなくて、友達もいるなんて…私の方が仲良いもん!!」

((…いや、違うな(いますね)…))

ただただ友達意識が強いだけだった。

千里は千里である。

まだまだ恋には疎いのであった。

「…大丈夫です、千里さん。千冬くんは1人の友達で裂かれるような人ではないですよ」

今はただ、こうやって慰めるしか日菜子はできなかった。

しばらくいじけていた千里だったが、落ち着いて帰って行った。

その場で見送った2人は、顔を見合わせる。

「これは、」

「どうにかしないといけませんね…」

夕方から夜に変わろうとしている空に、雲がちぎれては離れを繰り返していた。

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