第23話

22話:お怒りな先輩


なんか色々複雑なこともあった、花火大会の数日後。

龍也は、隣の教室に来ていた。

「おーい、廣川、いる?」

扉に手をかけながら、声をかけた。

「風柳くん!佳奈ならいるよ〜」

佳奈!呼ばれてるよ、と教室の奥で話していた廣川を呼んだ。

廣川は最初気づいていなかったが、一緒に話していた子に肩を叩かれ、ようやく気づいたようだ。

「…ど、どうしたの?龍也くん」

少し頬を赤らめ、でも嬉しそうに、こっちに来た。

龍也はそれを気にすることなく、話を進める。

「急にわりー。今から話せね?」

「えっ今から!?」

何を想像したのだろうか。

顔を更に赤らめた。

隣にいる友達に何やらヒソヒソ相談した後、

「…いっいいよ」

「…さんきゅ、じゃ行こうぜ」

龍也は歩き出した。

「佳奈!頑張れ」

「いけー!」

「ありがと!頑張る…!」

友人に応援されながら後ろを歩く廣川を、龍也は冷ややかな視線で見つめた。


***


龍也が廣川を連れてきた場所は、屋上。

どうしても、確かめたいことがあったからだ。

「…さて、廣川。俺はお前に聞きたいことがあるんだけど…」

「なに?」

フェンス越しにグラウンドを眺めながら、廣川が聞き返す。

「…最近、屋上に来たろ?何しに来た?」

直球に聞いた。

「……ご飯食べようと思って行ったの。それが何?」

遅れて返事があった。

視線は合わない。

構わず、龍也は質問を続ける。

「それは嘘だろ。"あの日"俺とすれ違いで行ったけど、何も持ってなかった」

その言葉に、廣川はグッと下唇を噛み締める。

「…確かに嘘ついた。でも、だから何?龍也くんにそれがなんの関係があるって言うの?」

先ほどの明るい声と打って変わって、訝しむように低い声になっている。

「関係大あり。日菜子ちゃんがその日から元気なかった。だから、聞いてる」

「…ひ、日菜子って…彼女?」

確認するように、恐る恐る、尋ねる。

「…え、…いや〜残念!まだ彼女じゃないんだよな…へへ」

日菜子と言われ、急にデレ始める龍也。

「…日菜子…あぁ、あの冴えない…」

龍也の反応から、思い当たったらしい。

皮肉るように笑った。

「…冴えない?何言ってんだ?日菜子ちゃんはな、少し大きな眼鏡かけてて、それがたまにズレるのが可愛い。髪も横に結ってて、サラサラだからしっかり結んでる。浴衣姿だって、デート服だって、色々考えてて、すごい似合ってて…。俺の気持ちにも、ちゃんと真剣に悩んで、考えてくれる、いい子なんだよ」

龍也の熱量に、押されるように廣川は口を噤む。

「…ッなんで。私の方が可愛いし…私だって好きなのに…!そんなにあの子がいいわけ!?」

気持ちを一気に吐き出すように、叫ぶ。

「…そんな日菜子ちゃんが俺は好きなんだよ」

だから、と龍也は言葉を続ける。

顔は、自然と綻んでいた。

「だから、ごめん」

「………。」

廣川は何も言わなかった。

言う気力も無くなったようだ。

そんな廣川を龍也は一瞬見て…それから、これだけは言わないとと口を開く。

「…これでも俺、結構怒ってるから。次、あんな事あったら…次こそ本気で怒るよ」

低い声でドスをきかせると、そのまま屋上を出ていった。


「…お前、言う時は言うなー」

「うわっ……盗み聞きは良くないと思うわ、せんせー」

屋上の階段を下りてすぐ、壁に寄りかかりながら書類を眺めるせんせーこと、木藤恐音が立っていた。

「俺だって怒る時は怒るし。好きな子馬鹿にされて、怒らないやつはいないっしょ」

「…なんか腹立つ」

「クソ理不尽笑…ま、俺がイケメンだからしょうがないか…」

「…ハッ。馬鹿なこと言ってねーでさっさと帰れ」

紙の挟まれたバインダーで軽く小突く。

「言われなくても〜」

後ろ頭に両手を起きながら、緩く龍也は答えた。

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