第20話

19話:Wデート?


「あらあら、可愛い〜!」

「…そんな事ないです…」

「えっめっちゃ可愛いよ!日菜子」

鏡見て!と言われ、姿見の前に立たされる。

「「かわいい〜!」」

本人以外の2人は歓喜の声を上げた。

再度そう言われ、日菜子は照れたように下を向いた。

そう、今は浴衣を着付けしていたのだった。

今日は花火大会当日。

千里の母と千里、それから日菜子の女子3人で、着付けしており、ちょうど着終わったところだった。

千里は赤の大きな椿が特徴の白色の浴衣。

日菜子は朱色の金魚が特徴の紺色の浴衣だ。

千里は髪が短くて結べないので、サイドを三つ編みにし、耳にかけてアレンジ。

日菜子はお団子にして簪をさしている。

ヘアアレンジも、着付けもお母さんがやってくれた。

「…そーだ、日菜子!今日は眼鏡外していこーよ!」

せっかくだし!と日菜子の眼鏡を外す。

「…うん、こっちの方が今日は似合う!」

「…そ、それなら…」

と恥ずかしそうに日菜子は頷いた。

日菜子が眼鏡を外したところで、支度は終わった。

「ありがと〜!お母さん」

「あ、ありがとうございます…!着付けだけでなく、浴衣も貸していただいて…」

千里達はお礼をしっかり言う。

「良いのよ〜私も千里の友達をイメチェンできて嬉しいわ〜」

手を頬に当てて、ニコニコと微笑む。

秋葉と似た感じの、おっとりした人だ。

そう、お母さんが言った時、

「千里姉さん、もう行くの?」

「ちーちゃんかわい!!」

「千里姉!ソイツ、だれだ!」

千里の弟妹達の、優、三矢、冬だ。

「ソイツ、じゃないでしょ〜この子は私の友達の日菜子だよ!」

「ま、松村日菜子です…!」

ぺこりと日菜子が挨拶をすると、弟妹達もそれぞれ挨拶した。

もう少し後で同じく祭りに行くことも教えてくれた。

それが終わると、優が代表するように、日菜子の前に来た。

「…千里姉さんはおっちょこちょいだけど、本当に良い人だから、これからも仲良くしてくれると嬉しいです」

「…!?ちょ、優!?」

突然のことに千里は驚いて優を見る。

「そ、それはもちろんです!…とてもしっかりしてる…」

感心したように日菜子は呟いた。

「そーなんだよ〜優はほね、んとにしっかりしてるの!ちょっと抜けてるけどね、秋葉って言う私の妹も…」

千里が褒められて嬉しそうにし、弟妹自慢話が始まりそうになった時。

「…千里〜?お友達が待ってるんじゃない?」

お母さんが話を遮る。

その言葉に千里は思い出したようだ。

「そーだ!千冬と先輩待たせてるんだった!」

2人はカゴ巾着を持って、千冬達の元へ向かった。

「ばいばい!ちーちゃん!」

「また後でね、姉さん」

お母さんと弟妹は玄関まで見送ってくれた。

「おまたせ〜!」「お、お待たせしました…」

「………。」「…お、日菜子ちゃーー」

ドアを開けると、同じく浴衣を着た千冬と先輩がいた。

千冬は平然と、先輩は顔を赤くして、口をパクパクと開いている。

その上、先輩は同時に持っていたスマホを落とした。

それに気づいた日菜子が慌ててスマホを拾い上げる。

渡そうとするが、先輩は硬直していて、受け取らない。

数秒後。

硬直していた先輩は、やがてハッとして、目の前の日菜子に気づく。

「…超かわいいです…」

「………。」

日菜子は恥ずかしかったのか、下を向いた。

いい雰囲気になってる中で、千冬は千里に近づいた。

「…今年は浴衣着たんだね。…似合ってる」

「でしょ!今年は日菜子もいるしね!これでもたくさん食べてやるんだから!」

なぜかドヤ顔の千里。

ちなみに、千里が毎年浴衣を来てこなかった理由は、『歩きづらい』『出店の物がいっぱい食べれない』からである。

「今年もたくさん食べようね」

そんな千里を微笑ましく思う千冬だった。


***


「…わ〜!出店いっぱいある〜!!」

目を輝かせる千里。

さっそく祭り会場に来た千里達。

と、まぁ言っても、隣に移動しただけだが。

そう、千里の実家、鈴鳴神社で花火大会が行われるのだ。

だから、千里と千冬は飽きるほどこの祭りに来ているのだった。

それでも、飽きた顔1つせず、いつも初めて体験るように楽しそうにできるのは、千里だからかもしれない。

「…じゃ、ここから二手に別れよーぜ」

「なんで別れる必要があるんです?みんなで回りましょーよ」

千里が不思議そうに首を傾げる。

手には綿菓子と焼きそばを持っていた。

…いつの間に買ったのだろうか。

後から聞くと、顔見知りのおじさんにサービスと言って貰ったらしい。

「…俺が日菜子ちゃんと2人で回りたいからに決まってるでしょーが。…いい加減分かれ!」

軽くコツンと頭を叩く。

「へーそうなんですかー。わっかりました、千冬!早速行くよ〜!」

棒読みで相づちを打ち、千冬の手を引いて走り出す。

結局、先輩の言った意味は良く分からないまま。

千里見解では、『日菜子と仲良くなりたいんだ!』と言うことになっている。

かすっているが、意味は違う。

「俺達も行くか〜!…あ、はぐれないように手、繋いどく?」

差し出された手。

「…だ、大丈夫です…」

巾着を両手で握りしめながら、日菜子は断った。

「…そう?」

少し残念そうに先輩は手を引っ込めた。


一方その頃。

千里と千冬は、出店を回り、満喫していた。

美味しそうな食べ物が千里の手にいっぱい乗っている。

唐揚げ、わたあめ、焼きそばに焼きとうもろこし。

持てないものは千冬が持っている。

今はある程度食べて、落ち着いたところだ。

そろそろ食べること以外にもしたいと思ったところで、千里はあるものに目がいく。

「…千冬!…あれで勝負しない?」

ニヤッと不敵な笑みを浮かべて指さしたのは、射的。

色んな景品が並べられており、まだいっぱいの景品があるので、当てられた人は少ないのだろう。

「…いいね。射的なら負けないよ」

「良し!遠慮なく来い!」

おじさ〜ん!挑戦させてー!と千里は元気よく駆け寄り、ゲームスタートする。

パンッパンッ

それぞれ狙いを定め、撃っていく。

その試合は、通りすがりの人が驚いてわざわざ足を止めるほどだった。

「すご〜い!あの人たち、いっぱい当ててる!」

「二人とも上手い!…カップルかな?」

周りの声の、最後の言葉に千冬は思わず反応してしまい、少し狙いが逸れてしまった。

(…ただのうわ言…気にしない…)

そう思い、もう一度狙いを定めてーー

「…き、君たちっそこまでにしてくれ…欲しいものなら1つ、やるからよ…」

おじさんの死にそうな声が聞こえた。

千里達があまりに取りすぎて、これ以上やらせたら全部なくなると思ったらしい。

「「…ご、ごめんなさい…」」

二人は苦笑いで同時に謝った。

「…ふふっつい夢中になってやりすぎちゃった!」

千里はペロッと舌を出す。

「…次からは気をつけようね…」

あれから千里達は、杏や冬達が好きそうなぬいぐるみ、プラスチック製の剣を貰って、射的を終えた。

集中したためか、少し疲れた。

「…俺、なんか飲み物買ってくるよ」

千里はここで休んでて、と椅子に座らせる。

椅子と机があり、そこで休んだり、食べたりできる場所だ。

屋根もあるので、雨でも安心である。

「ありがと!千冬」

この際、買ったご飯を処理しようと千里は箸を持った。

千冬はその様子を見て、フッと笑みをこぼしながら、飲み物を買いに行った。


(千里はラムネでいいよね…)

千冬は、ラムネを売っている出店に来ていた。

氷水に浸かっていたラムネは冷えていて、この暑い時期にちょうど良い。

ラムネを見つめながら、千冬は、千里がラムネ好きになった理由を思い出す。

小さい頃…まだ、幼稚園生だった千里が、初めて夏祭りでラムネを飲み、その美味しさに魅了されたのだ。

あの時の千里の、驚きと嬉しそうな顔。

「…かわいかったな」

小さな時から千里は明るい性格で、太陽のような子だった。

そう呟いて、待っている千里のことを思い出し、ラムネの代金を払う。

2つ分。

ラムネを持って、歩き出した。

「……"千春"…」

ピタリ、と足が止まった。

いるはずのない声。

聞くはずのなかった、声。

振り向きたくなかった。

でも、"僕"は向き合わなくてはいけない。

この少女から。

大きく息を吸って、振り向いた。

「…霞草、なんでここに…」

霞草、と言われた少女は、茶色の長い髪を手でなびかせ、"千春"の方をしっかりと見て言った。

「…君に話をしに来たわ」

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