第11話

10話:勉強会


「勉・強・開・始!!」

千里は元気な声をあげた。

勉強の決意表明。

しかし、机に並べられているのはーー

大量のお菓子。

もちろん、ノートや教科書は置かれているが、『お菓子パーティー』と言われた方が納得する。

「千里、お菓子は一旦除けて。それじゃ勉強できないでしょ。」

千冬が優しく制する。

「べ、勉強頑張った後にご褒美として食べましょうか!」

優しくフォローする日菜子。

「うー!良し!頑張るか〜」

2人に押され、渋々千里は勉強に手をつけ始めた。

「……千冬、ここ分かんないんだけど」

「…ここはね、方程式を使うんだよ。それで、終わったら連立方程式を使う。」

スラスラと説明する千冬。

それに感心の声を日菜子はあげた。

「すごいですね!そんなにスラスラと教えれるなんて…」

「そんなすごいことはしてないよ。ただ、千里と俺は幼なじみだから教える機会が人よりたくさんあっただけ。」

少し照れた口調で言う。

「私は理解はできてるんですけど、教えるのが苦手なので羨ましいです。」

「そんなことないよ〜!日菜子も教えるの上手いじゃん!だって私、1度も解けなかった英文が解けたし!」

ニコッと笑う千里。

前に差し出したノートは、赤ペンで丸が書かれている。

「そう言ってもらえると嬉しいです…!」

日菜子も嬉しそうに笑った。

その時、

「…日菜子〜悪いけど店手伝ってくれない?」

お客さん増えてきたから、とカウンターからお母さんが顔を覗かせた。

「はーい!…千里さん、千冬さんすみません!少し席外しますね。良かったらご飯食べて帰って行ってくださいね。」

日菜子は軽く礼をすると、少し急いだ様子でカウンターに消えていった。

「…どうする、千里。何食べる?」

「ん〜そうだなー前は生姜焼き食べたから…」

千里が食べる前提で千冬は話し、メニューを差し出す。

千里が何を食べるか悩んでいるとーー

ガラッと、扉が開く音がした。

「…あれ?お前ら何やってんだ?」

それと同時に、聞き覚えのある声がした。

千里達は慌てて振り向くと、そこには竜也先輩とーー

「「先生!?」」

1年A組の担任、木藤 恐音が立っていた。

「お〜お前ら偶然だな。まさかここで生徒に会うとは。」

特に驚く様子もなく、木藤は千里達と隣の席に座った。

「…ど、どうしてここに先生が…」

千里は困惑気味に尋ねる。

すると、木藤は呆れた様子で答えた。

「…?何変なこと言ってんだ。普通に飯食いに来たに決まってるだろ?」

確かに言われればそうである。

「確かにそうですね!?」

千里は元気に叫んだ。

「お前らはなんだ、勉強か?んなのテスト前にすりゃいーだろ。」

メニューを取り、眺めながらとんでもないことを言う。

「教師がそれ言いますか…」

今度は千里が呆れた口調で言った。

「まぁ一応教師だし、それっぽいこと言わんにゃならねーだろ。」

「はぁ…」

分かったような、分からないような。

でも、正論を告げる先生より、こうしてさっぱりしている方が良いな、となんとなく千里は思った。

「でも、木藤先生はなんで風柳先輩を連れて?」

千冬が興味本位に尋ねる。

「生徒指導だよ。ったく。コイツは反省もせず校則破りやがって。」

おかげで仕事が増える、と疲れた風にして肩を回した。

「そんなこと言って、一緒に飲む人欲しがってただけでしょーーて痛っ!」

木藤が風柳の頭にげんこつを落とす。

先輩は痛そうに頭を押えた。

手加減なしの様子から、二人が仲がいいのかが分かる。

(仲が良いと言うか、指導が多いだけだろうが。)

「あはは…」

その様子に千里達は苦笑いを浮かべる。

「…あれ、今日は2人なの?前はもう1人いたよね。えーと…ひ、」

先輩が名前を言いかけた時。

「お冷お持ちしました。」

「……な、こ、ちゃん…」

日菜子がエブロン姿でコップの乗ったお盆を持って、先輩のテーブルに来る。

先輩は驚いたように固まっていた。

人が急に来て驚いた感じでは無さそうだが…

日菜子もその様子に困ったのか、驚いたのか、同じように固まっている。

たっぷり20秒固まって、先輩はようやく口を開いた。

そして一言。

「………可愛い。」

先輩は衝撃の一言を述べたのだった。

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