第10話

9話:テスト


「今週末からテスト期間だ。」

ビシッと空気が固まる。

皆、嫌そうに顔を歪める。

焦る者、テスト範囲を見直す者、嫌だねと会話する者…

反応はそれぞれだ。

「…お前ら、赤点取らねぇくらいには勉強しろよ〜」

担任の木藤先生はヒラヒラと学級日誌を掲げながら、早々と教室を出ていった。

先生が去ってから、わっと一斉に生徒が話し出す。

「やだなー入学してから初めてのテスト…」

「赤点なんて取ったら夏休みが遠のくぜ…」

わいわいとテストの話で盛り上がる。

だが、だんだんとメイクやゲーム、自分達の中で流行っているものの話になっていく。

そんな明るい雰囲気に水をさしそうな雰囲気を持つ者が…

「…テスト……ですって…?」

全てのHPを奪われた千里が、ジメジメとした空気を放っていた。


「千里、元気だしなよ。テスト週間だし、これから勉強すればー」

「それができたら苦労しないんだよ〜千冬ー!!」

がばーっと千冬に抱きつく千里。

千冬はそれを優しく受け止め、よしよしと頭を撫でている。

「千里さん元気だしてください!赤点は30点です!勉強すれば、そうそうとることはないと思いますよ。」

「…うっそうだけど…勉強したくない…」

ずーんと沈む千里。

一応、千里達の通う早川学園は進学校だ。

偏差値が高い分、校則が少し緩い。

なぜ勉強に自信の無い千里が入れたのか。

それは千里の「この学校に入りたい!」欲と、千冬の手厚い勉強支援による賜物。

「どうしたものか…千里、1回落ち込んだら持ち直すのに時間かかるんだよね。」

千冬が考え込むように手を顎に乗せる。

1回スイッチが入れば、切り替えが早いのだが、何で持ち直すのかは千里自身にしか分からない。

「どうしましょう…あ、飴食べますか?千里さん。ちょうどお母さんが皆さんと食べなさいってくれたんです。」

ぐでっとする千里に飴を渡す千里。

いちごミルク味だ。

「食べる…」

気力なく、ゆっくりした動作で口に放り込んだ。

「今日明菜ん家で勉強しよ!」

「おけ〜ワック寄ってそのまま行こー!」

クラスの女子達が楽しそうに会話しながら教室を出ていく。

それを視線で追い、千冬は向き直って千里に言った。

「俺達も勉強会しよう、千里。」

「……!それいいですね…!皆さんでやればきっと楽しいです!」

日菜子も大賛成だ。

千里は思わぬ提案にしばらくびっくりした顔を向けていたが、やがて満面の笑みを浮かべた。

「やる!!勉強会したい!楽しそう!」

私、気合い入れるためにジュース買ってくる!と、千里は言い残し、飛び出ていく。

それを呆れた様子で千冬と日菜子が見る。

「…あれ、絶対勉強する概念忘れてる…」

「あはは…やる気が出たから良いじゃないですか。」

日菜子は苦笑いをうかべた。

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