第9話

8話:橘 六花


「あれが、ウワサの…」

次の日、千里達はまた隣のクラスに来て、窓からマドンナを覗いていた。

入学してから日数がたったからか、もうあまり人だかりはいない。

だが、立ち止まらずとも、ちらほらと見ている。

改めて、彼女をマジマジと見つめた。

橘 六花。

年齢16歳、A型。誕生日は4月9日。

好きな食べ物はオムライス、嫌いな食べ物はトマト。

趣味はお菓子作りで、良く作ってはあげてるとか…

今は読書をしているが。

これが、昨日に続いて千里達が集めた六花の情報だった。

聞いてみれば意外と簡単に彼女のことを聞き出せた。

皆がウワサしているらしく、調査はなんてこと無かった。

「…うーん、にしてもほんとに可愛いなぁ。」

千里は眺めながら呟く。

悲観とかではなく、憧れというか、興味津々の様子である。

「ですね…!でも、話しかけられるでしょうか。」

日菜子が不安そうに眉を下げる。

「…話しかけるなら読書してる今だと思うよ。それに、休み時間も後少しだし。」

チラッと千冬は時計に目をやりながら話す。

確かに、後10分を切っている。

もう休み時間を逃すこと4回で、昼休みの今が最後の綱である。

(休み時間を逃したのは六花が人に囲まれてたり、移動教室だったり、こうして今のようにウジウジしていたからである。)

「…よし!悩んでても仕方ないや!私、行ってくる!!」

急遽千里は立ち上がり、そのまま教室に入っていった。

日菜子と千冬も頷き合い、その後に続く。

いきなり教室に他の教室の人が入ってきたため、少し周りがざわつく。

「…A組の千冬くんがなんでB組に!?」

「知らなーい!でも生で見れてちょー嬉しい!」

ヒソヒソと女子が呟く声も聞こえる。

千冬も、顔が良いため人気だ。

すでにファンクラブができているとかないとか。

マドンナの六花に、イケメンの千冬。

変なところで似たもの同士?な2人は大変であった。

そんな2人が一緒の空間に来たため、辺りは何が起こるのかとザワザワし始めた。

「…橘さん!ちょっと話し良い!?」

まぁ、もちろん交渉は千里だが。

六花は驚いたように、目を向けたが、チラリと周りを見て、立ち上がった。

「…良いよ。少しだけなら。」

薄く色つきリップが塗られた唇の端を少しあげて、六花は頷いた。

「…それで…一体なんの用?」

不思議そうに六花が尋ねる。

千里達は廊下へ出た。

呼ばれ慣れている感が若干あるのが感じられる。

「…えーと、私達が用があるんじゃなくって、ある先輩が用事あるらしいんだよね。今日の放課後、会ってくれないかな?」

あの先輩なら奥手には見えないし、自分で行けそうなものだが、聞いてみると

「なんでわざわざ頼むかって?…そりゃ俺みたいなイケメンが来たら周りの女子が囲むだろ〜…て、おい、逃げるな。そんな聞いて損したみたいな顔するのやめろ。イケメンジョークだろ〜」

と、言われた。

はぐらかすと言うより、本気で言っているような気がした。

とにかく、それが理由としか言えない。

悩むと思ったが、六花の答えは意外とすぐ返ってきた。

「良いよ!その先輩に教室来るように行っておいて。」

それじゃ、私この後移動教室だから、とあっさりした返事で教室に戻って行った。

千里はしばらく固まっていたが、キラキラした目で千冬を見る。

「…めっちゃ可愛かったね!橘さん!声も雰囲気もふわふわしてた〜!」

おお〜と感嘆の声を上げる。

「そうだね。後で先輩にOKだったって言いに行こう。」

「ですね!先輩、喜びますね。」

それぞれ感想を呟きながら、千里達は先輩の教室を目指した。


***


「聞いてくれよ〜!」

放課後。

すぐ報告したいから残っててくれと言われた千里達は、先輩の教室に居た。

日菜子は、店の手伝いがあるらしく、先に帰った。

目の前にいる先輩は、少ししょげた様子で机にぐでーともたれている。

「なんですか…」

千里が呆れた様子で聞く。

「デートの誘い、断られた!」

「「でしょうね。」」

千里と千冬はバッサリと言った。

「なんか君達俺に対して扱い酷くない??」

風柳が突っ込む。

「そんなことないですよ〜」

千里が目を逸らして言う。

「おいこっち向け。」

千里と先輩は相性良さそうだ。

「…まぁなんと言うか、ありがとな。えーと、」

「千里!鈴鳴千里です。」

「早川千冬。」

「千冬!お前は知ってる。ほら、人気者だろ?お前も。めっちゃ女子から人気だよな〜うちのクラスの女子もうるせぇこった笑」

嫌味な感じではなく、茶化すように笑った。

「……。」

千冬はどこか気まづそうに視線をずらす。

「……??」

千里だけは訳が分からなそうにしている。

「あ!もう1人は松村日菜子って言うの。覚えてる?」

思い出したように声を上げた。

千里はすっかり敬語が抜けていた。

心を開いた印かもしれない。

「ん〜覚えてるけどずっと千里の後ろにいたからあんまり顔は覚えてないかも。」

俺顔覚えるの苦手だしな〜と申し訳なさそうに言う。

「酷いな〜最低!まぁのちのち出会うよ!」

「それもそうだね。」

千冬は頷く。

「千里に千冬ね、何がともあれ、手伝ってくれてさんきゅーな。」

ニッと笑う先輩。

感謝されて悪い気はしない。

千里と千冬は微笑んで(千冬はマスク下できっと微笑んでいる)言った。

「いーえ!」「どういたしまして」

その日の帰り、先輩がジュースを奢ってくれた。

千里は大満足だったと言う。

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