第60話
IFストーリー:きいな救出作戦!
※これはきいなが助かる世界線のお話です。本編とは違うエンディングとしてお楽しみください!
某日。
「…姉さんが助かる方法が分かったかもしれないわ…!」
少し、興奮した様子で黄泉が言う。
「ほ、ほんとですか!?」
「まじかよ」
「それは良かった!」
それぞれ、掃除をする手を止めて、驚いたような、嬉しいような表情を浮かべる。
過去を見、姉弟と再会し、父と和解し、全てを終わらせた今、まだ残っている課題があった。
それは…『姉を巫女の牢獄から助けること』。
もう亡くなってしばらく経っているため、救出するのは極めて難しい。
水中がどうなっているかすら、分からないのだ。
それが、解決されるかもしれない…。
まさに、願ったり叶ったりである。
「…ぐ、具体的にはどうやってやるんですか?」
大きな冒険をする前の子供のような、ドキドキした表情を浮かべる月。
「…それはまだ内緒よ。早速、明日姉さんの元へ向かうわ」
人差し指を唇に当て、器用にウインクをしてみせる。
途端、月は恋する乙女のような表情になる。
「でも、明日は盂蘭盆じゃないですよね?」
確認するようにリヒトが問う。
「別に助けるのに盂蘭盆は関係ないんだよ、ばーか(笑)」
陽は鼻で笑う。
リヒトは言い返さずに、ただ苦笑する。
「…陽、」
黄泉の拳骨が陽の頭に下ったのは、言うまでもない。
***
翌日。
早速、黄泉達はきいなのいる崖にやってきた。
もう少し細かく言うと、きいなは崖の先…水の中にいる。
どういう原理でなっているのか、いまだ原因は解明されていない。
「ここにきいなさんが…」
リヒトは働き始めてから初めての外出で、当然、見たことないものばかり。
きょろきょろと辺りを見渡している。
月と陽もここにはあまり来たことがない(関係者以外立ち入り禁止のため)ので、軽く辺りを見ている。
が、働き始めた最初に見学したのと、別にあの世では珍しいものではないので、特に気にせず黄泉の指示を待っている。
黄泉はしばらく話さず、崖から池を見たり、下に降りて直接触ったりして何かを確かめている。
約30分ほどで黄泉は戻ってきた。
「どうですか?何か見つかりましたか?」
ソワソワしながら月が尋ねる。
黄泉は微笑む。
「えぇ。さっき、自分の目で見て確信できたわ。…私は、姉さんを助けられる」
迷いなく、はっきりと黄泉は断言した。
「「「…おぉ……!!」」」
これには一同も、歓喜の声をあげる。
「…じゃあ早速やるけれど…」
黄泉はそう言いながら、髪を止めていたリボンを外して、リヒトに手渡した。
黄泉の長い髪が、はらりと垂れる。
月は、リヒトを恨めしそうに見、リヒトは苦笑いする。
「…陽、月を捕まえて、離さないように」
「ガッテン!」
言ったも同時に黄泉は崖向けて走り、陽は月を後ろから抱え込むようにぴったりとくっついた。
黄泉の言った通り、しっかり捕まえている。
「陽…!?黄泉さーー!……え、ええええええええええ!!?」
月が悲鳴を上げたのも当然、黄泉は崖に大ジャンプしたのだから。
ドボンッッ!!!
強い衝撃の中、黄泉は池の中へ入った。
着の身着のまま入った水の中は、冷たかった。
(…!やっぱり、普通の池とは違う…!)
黄泉は水の中なので当然体は浮いているし、泳いでいるのだが、奥にちらりと見える人は泳いでいない。
そこがまるで、水の中なのに、一つの空間になっているように。
しかし、人がいる周りだけに何かしらの結界が貼っていることは確認できない。
誰かの術でもない。
つまりーー。
(半分から底が”あの世”なんだわ…!)
普通は巫女しか入らない、生贄のための池。
死んでからもなお、残り続けなければいけない場所ーー。
そんなところに、ただの少女が、それも特別な力を持つ少女が入ったのなら…!
(特異点が生まれる…!)
「姉さん!!!」
届くはずないが、叫んだ。
しかしーー。
呼応するように人は…きいなは振り返り、上を見上げた。
泣き出しそうな顔になり、黄泉の伸ばした手をしっかりと掴むように、手をのばしたーー。
***
一方その頃。
待機組は(と言っても月が)阿鼻叫喚だった。
「あぁぁぁぁぁ!!よ、黄泉さんがぁ…し、し…」
陽に捕まったまま、ガクガク震える月。
「もう俺らは死んでる…つーか、あの世の人間なんだから死なねーっての!」
「あの高さから飛び降りるなんて勇気あるな、黄泉さん」
陽は月に突っ込み、リヒトは感嘆の声をあげながら、池を覗き込む。
すると。
「…げほっ!…は、はぁ…はぁ…」
崖の下から、せき込む音が聞こえた。
池には、疲れた様子でぷかぷかと水面に浮いている黄泉と…
「…きいなさん!!」
「「……!!」」
黄泉に抱えられる、きいなの姿があった。
リヒトの声で二人も状況を理解し、三人で急いで崖下まで走った。
リヒト達が到着するとすでに、黄泉は岸まで上がっていた。
座って、濡れた髪を絞っている。
服を着たまま飛び込んだため、すべてびしょびしょだ。
潜水で疲れたのか、やや頬が赤い。
きいなも同じ状況だが、外に出られた状況を理解できていないようだ。
「黄泉さん!」
リヒトが声をかける。
「リヒト…月、陽も…。姉さん、助けられたわ」
嬉しそうに微笑んだ。
「…よ、良かったでしゅ、ほ、本当に…」
月は黄泉から視線を外しながら、噛みつつ答える。
今の黄泉は、水で体に服が張り付き、透けている状態だ。
何が、とは言わないが。
まあ要するに、少し色っぽくなってる…のだ。
月はそれを意識してしまい、顔を真っ赤にさせていたのだった。
「…羽織るもの今なくって…俺のシャツで良かったら、上から羽織ってください。陽!お前のをきいなさんにかけてやってくれ。寒いのもあるだろうし」
「へーへー」
陽とリヒトは自分の着ていたワイシャツを脱ぎ、黄泉ときいなに手渡す。
(リヒトは親切でやったんだし、他意はないし、でもなんかこう…僕が…うぅ…)
その光景を、月は複雑な気持ちで見ていた。
「助かった。ありがと陽。……まさか本当に出られるなんて…!」
シャツをお礼を言いながらきいなは受け取る。
しばらくして出たきいなのうれしそうな声に、全員が微笑んだ。
「当たり前よ。何年もかけて頑張ったんだから…」
茶目っ気を含めながら言い、水中で気づいた特異点についても語った。
「なるほど…?難しいことは良く分かんないけど、水中でのあの世とこの世、その狭間で例外(イレギュラー)が生じることによって時空?に歪みがでた?みたいな?んわー!なんで外出て早々難しい話してるのー!」
うがー!ときいなは叫んだ。
「あはは…帰って何か美味しいものでも食べましょうか」
リヒトは苦笑いする。
「食べる!とびっきりのをお願い!」
それを皮切りに、皆立ち上がり歩き出す。
残ったのは、黄泉ときいなだけだ。
「…ありがと、泉。泉のおかげで出ることができた」
「そんな…」
「これから何があるかは分からないけど、また、姉妹仲良く過ごしていきましょ」
きいなは優しく微笑んで、黄泉に手を差し出す。
「…えぇ、姉さん。もちろんよ」
黄泉も、そっと握り返した。
一度離れてしまったけれど、もう二度と離さない。
姉妹は固く誓い、ゆっくりと皆が待つ方へと歩き出した。
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