第57話

After story:月と陽、学生時代 其の五


「…ま、待ってよ…陽…」

「お前の体力のなさが悪いんだろ、ばーか」

2人の少年が走っている。

時刻は午前9時。

とっくに学校..いや、入学式は始まっている。

それなのになぜ2人は走っているのか。

そこには深い深いわけが……なかった。

遅刻の理由は大きくわけて2つある。

1つ目。陽が寝坊したこと

2つ目。月がお人好しすぎて、通学途中で色々人助けしまくったから

まぁそんなわけで、2人は絶賛大遅刻中であった。

入学式早々。

「...だぁぁ!月が寄り道なんてしなかったらもうちょっと早かっただろ!」

「もうそんなこと言ったって遅いでしょ。そもそも陽が…」

「うるせぇうるせぇ!」

月の反論を大声で遮り、先に校門に入る。

と言っても、入学式は始まっているため門はしまっていたので、陽は軽く飛び越えた。

それに月も続く。

その時。

「…あ、間に合った……!」

左から女の子の声がした。

月は目を見開く。

その瞬間はスローモーションのようにゆっくりとした時間感覚だった。

が、走る足は止まらない。

隣で走る女の子も同じくだ。

月達と同じで遅刻したのだろう。

額に汗を浮かべている。

その時、バチッと女の子と目が合った。

気付かぬうちに見すぎていたのだろうか。

ニコッと女の子は笑って、月と同じくらいで体育館へ入った。

「…ったく!お前ら揃って入学式に遅刻とは...叱責は後だ。さっさと席に着け。」

先生の怒りの声に押されながら、急いで席の所へ行く。

少し先に着いた陽はもう席に着いていた。

入学式は予想通り早く終わった。

陽はそれでも疲れたらしく、肩を動かしている。

「あ〜やっとだるい時間が終わった!月、さっさと帰ろーぜ」

「…で、でも先生が後で話があるって…」

多分…いや、確実に叱責だろう。

「そんなんいーだろ..朝早くからやるのがわり

ー…」

「お前ら、どこに行こうとしている?」

靴箱前に来て、先生の声が陽の声を遮る。

「…あ、えっとこれはその、」

月はあわあわと手を前に振る。

「お前ら二人!!指導室に来い!!」

「「………はい。」」

2人はすごすごと指導室へ足を運んだ。

「…あ、」

指導室へ入ると、先程の女の子がいた。

月は思わず口を開く。

女の子も月の顔を覚えていたらしく、小さく手を振った。

あとの結末は予想できるので描写を省こう。

普通に正座させられて怒られた。

たっぷり1時間、怒られたあと、月達はようやく開放された。

すでに他の生徒は帰っている。

「いやあたくさん怒られたねぇ!君達も災難だったね!」

反省の色が1つも見えない明るさで女の子は話す。

改めて月は彼女を見る。

茶色のふわふわした長い髪。

淡いピンクの目。

制服は程よく着崩しており、中に水色のパーカーを着ている。

髪にはハート型やカラフルなピンを付けていて、少し派手だが、彼女に良く似合っていた。

人目でオシャレ好きなのが分かる。

細部まで良く拘っている。

「…ぼ、僕達は普通に寝坊だけど、君はなんで遅刻したの?」

元気で、寝坊するようにはあまり見えない。

むしろ、朝から元気なイメージさえある。

「私は今日何でオシャレしようか悩んでたから遅刻したの!だって記念すべき入学式よ?着飾らなくて何になる!」

「な、なるほど...」

月は苦笑いする。

「はっ!ただのだるいだけだろ。学校なんて。お前、馬鹿だな。」

「なんですって!失礼ね、あんた!」

むむむ~と睨み合う。

2人は相性が悪いらしい。

まぁ十中八九、喧嘩を売った陽が悪いのだが。

月はその真ん中でただただ困っていた。

「やっと見つけた!魔羅!!」

そんな2人の喧嘩を収めた?のは1人の男の声だった。

黒い目に黒髪。

前髪は真ん中で分けられていて、短髪かと思えば、少し伸ばされた髪を束ねていた。

服はスーツ姿で、執事のような服装。

まるで彼女の従者のような人だった。

そして、彼は彼女のことを『魔羅』と呼んだ。

彼女は魔羅と言うらしい。

「お前初日から遅刻しやがって...俺をこれ以上困らせるな。」

「別に私は困ってないもーん!あんたが世話焼きなだけでしよ。」

今度は二人がぎゃんぎゃん言い合いを始めた。

月は更に困った。

だが、男の方が月達に気づき、言い合いを止め

る。

「…あ、すまねえ。俺は黒羽だ。不服だが、俺は魔羅と契約した悪魔でね。コイツは魔羅。ファッション好きのただの馬鹿悪魔だ。」

「馬鹿って失礼!女の子はおしゃれに拘るものなの!」

2人は一見仲悪そうだが、これは犬猿の仲っぽそうだ。

「俺はコイツの説教があるから帰るぜ。おい魔

羅!お前も帰るぞ。帰ったら菓子も服も楽しむのなしだ!」

「絶対嫌ー!あ、双子くん達ばいばーい!」

引きづられながら魔羅は帰って行った。

「…なんだったんだあいつら…」

「ぼ、僕達も帰ろうか」

かくして、波乱の入学式は終わったのだった。

そして、この出会いは後々長い関係に渡り、卒業した後も憎まれ口を叩く仲になるとは、この時の月達はまだ知らない。

魔羅が特待生で卒業、出世し、その他仲間達と悪魔界の治安を保つ話も一ーまたどこか違う世界線であるかも知れない。

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