第47話

第21話:答え合わせ 中編


「…先ずは、どうするか、よね!」

キュッキュッ、ときいなは白い紙に文字を書いていく。

『父さんに会って話を聞こう!大作戦!!』

「…プツ作戦名…ダサっ」

馬鹿にするような笑い。

「…え!そーかなー。」

むー、と頬を膨らますきいな。

「作戦名は何でもいいわよ。大事なのは内容。」

泉がピシャリ、と制裁を入れる。

「「……はい。」」

陽ときいながスゴスゴと引き下がった。

「…流石黄泉さん。…かっこいい。」

尊敬の眼差しを向ける月。

「…尊敬して良い様な、無いような…」

リヒトは苦笑い。

「先ず一番の壁は...私が外に出れない事よ。」

「「……。」」

陽と月が口を噤む。

「…出られない?」

きいなが反芻する。

「…良ければ、教えてくれませんか?」

リヒトも分からないと言う視線を向ける。

泉は頷く。

「…私はここに囚われているの。」

泉はきいなと別れた後の事を思い出したーー

「…姉、さん…?」

その場に経たり混み、呆然とする。

「…おい!どうするんだ!!」

「…知らねえよ!閻魔様の花嫁何だろう?全く、お役目を果たさないまま…」

「…黙れ。」

『……!!!』

怒りを押し殺した重圧のかかった声。

空気が、場が、ビリビリと連れる。

一気に静まり返る。

「…閻魔様…」

「…贄が死なずに儀式は失敗したかと思った

が…」

声の主、閻魔は、一旦話を区切ると、また話し出す。

「見事に成功した。…神も喜んでいる。…きいなは残念だったが…」

名残惜しそうに、口につけていた酒を一気に煽

る。

「…見返りは受けてもらうぞ。…祐介。」

冷静な口ぶりとは思えないほどに、冷徹な眼差しを閻魔は向けた。

後ろで声が聞こえる…気がする。

慌てふためく声。

怒りの声。

…冷徹な声。

泉はそれどころではなく、ただただ姉が落ちた崖を眺めていた。

眺めるだけでは駄目だと分かっている。

分かっているが、どうにも重い鎖で縛られたように、足が動かない。

今すぐにでも反論したいのに、絶望で口が動かない。

「…仕方がない。きいなは諦めて、新たな花嫁を見つけるとしよう。」

その声にハッと我に返る。

(…花、嫁…?)

本来、きいなが受ける予定だった役割だ。

連れてこられたのは私を含め三人。

優地は男だから取り敢えず無いとして...残るは、私。

無いとは言いきれない。

もし花嫁なんてなってしまったら…

(…簡単に捜索出来なくなってしまう。)

花嫁なのだから、閻魔とほぼ毎日一緒の生活になるだろう。

そうなったら…

(折角姉さんが命を懸けて繋いでくれた物を…無下にする事になるわ。)

そうなったら、どれだけ悲しい事だろう。

(私だけが、ウダウダしていられない!)

思いっきり頬を叩くと、泉は立ち上がった。

(…早速交渉に移るわ。)

泉は、行灯が煌めく場所にいる閻魔の元へ近づいた。

周りには、部下の鬼達が何やら話し込んでいる。

閻魔は冷静でこそいるが、怒りに満ちているのが分かる。

思わず固唾を飲んだ。

震える手足を抑え、ゆっくりと近づく。

「……?」

鬼が訳が分からない顔で泉を眺める。

竹の槍を持って戒する者もいる。

「…閻魔、話があるわ。」

「…お前!!」

槍を持った鬼が今にも突きそうな勢いで泉の元まで駆けようとする。

「待て。」

「…!しかし!!」

静かで、重みのおる声が静止する。

「…待てと言っているだろう。それに、儂もコイツに話がある。」

冷徹な目で泉を睨んだ。

泉も静かに睨み返した。


***


「…ここでなら話せるだろう。」

ふうっ、と息を吐くと同時に座った。

背もたれが異様に長い椅子。

縁は金色。

色は血のように真っ赤だった。

(…ここは、)

「…ここはどこだ、と思っただろう?」

「……!!」

確信を付かれた。

「…ここは儂の部屋だ。ここで裁判をする。..聞いた事くらいあるだろう?人間は噂好きだ。」香りを楽しむように深く息を吸うと、ワインを揺らした。

数秒間そうすると、一口飲む。

「…おとぎ話で聞くわ。」

緊張を隠すように微笑んだ。

余裕を見せなければいけない。

これから、交渉するのだから。

「…聞いたわ。黄泉路にあると言う彷徨う魂を閣魔の元へ導く場所があるって。そこを務めていた死神が辞めるそうね。」

笑みを浮かべる。

「…何が言いたい。」

「分かっているでしょう?貴方だって馬鹿じゃないんだから。伏せずにハッキリ言うべきだったかしら?」

冷や汗が流れる。

笑みを絶やさずに余裕を見せて。

「…分かっている。つまり、」

「…花嫁の代わりにそこで働かせてほしい、と言っているのです。」

閻魔の声を繋ぐように話す。

閻魔は黙って泉を見つめる。

緩やかなウェーブを描いた黒髪。

それに反するように輝く色の目。

紅で赤く染められた口。

目は意志の強さを物語っている。

美人の範中。

きいなに次いで美人だと閻魔は思う。

嫁にしてやっても良い、と思うが...

閻魔は漸く口を開いた。

「…それでどうする。どうなる。お前は永遠に此処から離れられないし、死ぬ事も出来ない。まず、死神になるにも血反吐を吐く程の苦労が必要だ。それが、お前に出来ると言うのか?」

否定も肯定もしない。

泉はその言葉に真っ直ぐ返す。

「…出来る、出来ないじゃないわ。やるかやらないか、よ。」

閻魔はほくそ笑んだ。


***


「…あれから私は、沢山の試練と勉強を乗り越えて…死神になったの。思い出したくないほどに。…そして、料理などを取り入れてここまで過ごしてきたわ。」

泉は柔らかく微笑んだ。

「黄泉さん…」

月は一言呟くのに精一杯と言う感じだった。

必死に涙を堪えている。

「…なんでお前が泣きそうなんだよ…」

そう言う陽も、ふざけた顔ではなく、何時になく真面目な顔だった。

「…泉、話してくれてありがとう。…でも、安心した。」

「…え?」

リヒトが聞き返す。

「…私、もう泉は諦めてるんじゃないかって心の中で思ってたの。少しだけ。でも、そうやって…諦めずにしてくれて、そのおかげで今生きていられてるなら...これ以上の幸せはないから。」

泣き笑いと化していた。

そして、きいなは立ち上がると、泉を抱きしめた。

「…ありがとう泉。ありがとう。」

静かに涙を流す。

涙が泉の肩を濡らした。

「…姉さん…私も、ごめんなさい。私も、少しだけ、脳を過ぎっていたの。諦めてるんじゃないかって。」

泉は目を閉じる。

まつ毛が濡れ、頬をも濡らす。

泉はきいなの背中を握り返した。

心が雪のように溶けていく。

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