第46話

第21話:答え合わせ 前編


「…これが、私の中にある記憶よ。」

黄泉が静かに呟く。

「…………。」

その言葉に、全員が言葉を失っていた。

黄泉の...いや、泉のあまりに壮絶な過去が、見えてしまったから。

きいなも黙っている。

妹にそんな過去があれば、そうなるだろう。

それ以外にも何かある気がしたが...聞ける雰囲気ではなかった。

「…優地は結局今も見つけられていないままよ。…姉さんも、亡くなっているとばかり思っていたわ。」

泉が絞り出すように話す。

「…ごめんね。私がもう少し勇気があって…泉に会っていれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに」

きいなは今にも泣きだしそうだ。

「きいなさんのせいじゃないですよ。…悪いのは閻魔達だ。」

リヒトが労いの言葉をかけつつも、閻魔達への押し殺した憎悪の感情が伝わる。

「…あの、率直で悪いんですけど、その、お父さんって今はどこに…?」

月が気まずそうに軽く手を挙げながら質問する。

確かに勇気のいる質問だ。

その質問に、泉は首を振る。

「…ごめんなさい。それは分からないの。…死別してから今日まで、一度も父とは会わなかったから。」

会わなかった。

会えなかった、ではなく。

泉の意志の強さを感じる。

「…私も。父の事も、臭界で探してみたんだけどね、見つからなかった。」

下を向き、暗い顔できいなが話す。

「………。」

その言葉に、皆が黙り込む。

冥界にいないとなると、輪廻転生か、既に地獄か天国に行っている事になる。

泉達を生贄にしたとなると、少なからず地獄行きだろう。

そんな様子を家は見ながら口を開く。

「…これは予想だけれど…もしかしたら…」

「…黄泉さん?」

口を噤む黄泉に月が心配そうに声をかける。

「父は不老不死かもしれないわ。」

その予想は、誰もが予想していないものだった。


***


「…不老、」

「…不死だァ?」

月と陽が訳が分からないと、声を上げる。

口には出していないが、他も同じだろう。

目が物語っている。

「…ええ。理由を説明するわ。…月、あの日…外出勤務をした時、父と会ったのを覚えているわよね?」

「…え、ええ。もちろん。」

戸惑いながら月は頷く。

「…その時の父は…私が死んだ頃と全く姿が変わっていなかったの。」

「………。」

全員に衝撃と確信がつく。

「…私が死んだのは、もう何十年も前なのよ。それなのに、姿形が変わっていない…それ以前に生きているのが可笑しいの。」

キュッと両手でカップを包むように強く握る。

確かに、もう生きられる歳ではない。

悪魔でもないのだから。

「…つまり、父さんは何らかの理由で現世を彷徨ってるって事?」

きいなが話をまとめる。

と言うよりは、頭がこんがらがる、上手く飲み込めない話を、話して整理しているように見えた。

「…そう言うことになるわ。」

泉は頷く。

ただ、その顔は暗く、まだ自分自身もじられていないようだ。

「………。」

またしても全員が口ごもる。

その様子を陽は紅茶を飲みながら眺め...ダンッッと力強くカップをテーブルに置いた。

陽に皆の視線が集まる。

全員が驚いている。

テーブルに投げていた足を引っ込み、足を組ませると、陽は話し出した。

「…だーーもう全員めんどくせえな!何だよ、話すたんびにゴモゴモロ閉ざして、シーンって暗くなりやがってよ。」

「…陽。」

月が珍しく本気で怒ったように怒気の視線を向け

る。

こんなに怒った月を見たのは初めてなのか、泉とリヒトは戸惑っている。

きいなも怒気に固まっている。

「…月、その怒気抑えるって。悪かったって。…空気、変えたいって思っただけだよ。ったく。」

気まづそうに、目を逸らす陽。

その言葉に月は怒気を無くし、皆は小さく微笑んだ。

陽は口こそは悪いが、決して悪い奴ではないの

だ。

優しい部分だってある。

不器用なだけで。

「…つまりさあ。その、親父?って奴に直接聞けばいんじゃねえの?話。」

「…は、」

そして、誰も思いつかない事も思いつく。

「…話って…聞けるの?」

きいなは呟く。戸惑いながら。

「…聞けない事はないと思うわ。また、現世に行くか、此方に連れて来れば良いもの。」

だけど、と泉は話を続ける。

「…実質、死んでいない人間を此方に喚ぶのは禁忌なのよね。…許可が下りれば良いけど。」その言葉に陽と月は頷く。

「…ねえ、解決しそうなとこ悪いんだけど。」

きいなが話を切り出す。

「何ですか?きいなさん。」

不思議そうにリヒトが尋ねる。

「…私、出来ればこっちじゃなくて、現世で会いたいんだ。…だって、そっちの方が絶対ちゃんと話せると思うから。」

憂いを帯びた顔で微笑んだ。

ね、と泉の方に顔を向ける。

「…そうね」

しばらく黙っていた後、一言、泉は呟いた。

その顔は少し、暗さが減ったように見えた。

「…さて!それじゃあ、現世に行く方法を考えましょう!」

「何仕切ってんだよ笑」

鼻で笑う。

「…陽は黙ってなよ。」

「…何い!?」

いつも通り。

少しだけ賑やかになった店で、新たな希望が生まれた。

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