第41話

第18話:前世の記憶 ー正体ー 前編①


「父さんは…死んでる筈だもの」

黄泉以外の全員が驚愕する。

黄泉はギュッと左腕を握り、俯いている。

僅かながら震えていた。

それは、父が亡くなった悲しみと言うよりも、なにか別の、大きな事に恐怖を抱いているように思えた。

黄泉さんがここまで動揺している事を見た事がない月は心配していた。

他の者も同じだろう。

「死んだってどう言う事だぁ?」

いつの間にか陽も来ており、前髪をかきあげる。

「それは…話せば長くなるんだけど…」

階段にいる黄泉を心配するように、チラチラ見ている。

言葉はしどろもどろだが、話そうとする。

「待って」

話そうとしたきいなを黄泉が止める。

「泉…?」

黄泉の方を見つめる。

袴の裾が揺れる。

茶色の瞳が心配と物語っている。

「…大丈夫よ、姉さん。私から話すわ。…過去を見てもらう。」

「泉…!」

何をするか悟ったらしい。

目を見開き、驚きを隠せないでいる。

「黄泉さん、良いんですか?」

月が驚きと心配を含めて聞く。

「大丈夫よ。…話すつもりはなかったけれど…」

そう言い、キッチンへ向かう。

その横顔は何時もの穏やかな顔ではなかった。


話すつもりはなかった。

ずっと、頭の片隅に置いておくつもりで。

誰にも話さず、終いには自分も忘れてしまわないか、無かったことにできやしないか、そんな事を考えていた。

…でも、そんな事は神様は許してくれないようだ。

"神様"か。

そんなモノ、あの日から消し去った…信じなくなったのに。

それでも、今はその"神様"のイタズラが、奇跡を呼んでくれないかと願った。


***


「きいなさんは巫女なんですか?」

月が成る可く明るい空間にしようと努める。

「え?…そうねぇ、それに近いかも?」

そう言い、席を立ち、クルンと一回転する。

きいなは茶色の目、短い黄色の髪。

髪は両サイドクルクルと巻き、赤の珠の髪留めで留めている。

それから、服は巫女装束。

白衣に赤の緋袴だ。

至って、普通の巫女服。

「…それと、」

とグッと月に顔を近づける。

月は座っている椅子から倒れそうになる。

「きっきいなさん…?」

「あんまりこの話、泉に話さないでね。私はもう割と吹っ切れてるけど、泉は…あの通り、吹っ切れてないから」

「は、はい」

ふざけている時とはまるで別人の、真面目な顔付きで話す。

月も悪意は無い。

言われたら、話すつもりはない。

だが。

じーーっとある人物を見る。

「…あ?話さねーよ。そこまで鬼畜じゃねぇ。それに、俺様をなんだと思ってる。俺はただのイタズラ好きだよ」

気配を察知し、ギロッと月を睨む。

シッシッと手で追い払う真似をする。

誰と言われなくても、陽である。

「わ、分かってるよ。念の為…」

陽に睨まれ、呆気なく小さくなった月。

「…できたわ、食べましょ」

月の横から明るい声がした。

黄泉だ。

ただ、明るい声は空元気であり、まだどこかしら元気がない。

このままでは駄目だと思う意思が、そうさせているように月は思えた。

それぞれキッチンから見て右から順に月、陽、誕生日席にリヒト、月達の向かいにきいな、黄泉が座る。

黄泉はきいなの隣に座る事に少し緊張していた。

「甘い香り…それに少しツンとする…?」

リヒトがスンッと鼻をすする。

「リヒト、正解よ。マカロンとジンジャーティーをいれたの。」

黄泉は微笑むーーいつも通りに見えるが、無理をしているのは誰が見ても分かる。

ただ、誰も口にはださず、置かれた料理を眺める。

料理だけは皆の気持ちと裏腹に、美味しそうな雰囲気を醸し出していた。

「…いただきます!」

月が手を伸ばしたのをきっかけに、次々と料理に手がつけられていく。

黄泉路 泉 過去を見る。

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