第3章

第33話

プロローグ


目の前が紅く染まった。

彼岸花の花が散る様に、線香花火が弾ける様に。

静かに音なく、飛び散った。

お腹に鈍い痛みが走る。

ジュクジュクと熱い感覚がお腹の中で広がる。

私は、スローモーションのようにゆっくりと地面に後ろから倒れた。

光の灯らない目で目の前にいた人物を見上げる。

視界が白く霞んで見えないが、目はしっかりとその人物を捉えていた。

マスクとサングラスをかけていて、顔は分からなかった。

ただ、男と言うことだけ分かった。

その男は手に包丁を持ち、ハァハァと息を荒くしているように見えた。

包丁は血がべったりとこびりついており、家で良く見るような物だった。

顔は…見えないが、強ばったような、怒りと興奮を抑えたような、そんな表情をしているのがありありと伝わった。

だが、男はすぐにハッとしたように我に返ってその場を立ち去った。

「にっ逃げたぞ!?それより、救急車は?呼んだの!?大丈夫なの…?」

ガヤガヤと色んな声がする。

私には…ま、だ…やる事が…。

遠くなる意識と霞む視界の端に、紫色の何かがチラつく。

それが何か分からないまま、私の意識は奪われていく。

「…死にたくない…」

私の小さな声は人々の重なる声に、埋もれるようにして消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る