第31話

モノローグ


「はっあぁぁぁ〜〜!!」

緊張した〜〜!とリヒトは大きく伸びをした。

今回、リヒトは頑張ったと思う。

あのドスの効いた声は、月を中心に忘れられないだろう。

ーーそのくらい、怖かった。

「お前、やるじゃねーか。…今度それ教えろよな。月に試してやる」

何故か上から目線。

ケケッとイタズラめいた顔で、リヒトの肩に腕を通し、話す。

「えっ?うーん…いや、それは…」

あはは、と苦笑いし、言葉を濁す。

「陽!?止めてよ…てか、やる前提だよね??」

顔を青くする月。

よほど、怖かったのだろう。

思い出して、ガタガタ震えている。

「んーー。あれは、なんて言うか…勢い?感情が高ぶって…」

しどろもどろに説明する。

「て言うかさ、なんでアイツ、あんなに煽られたのに怒らなかったんだ?あんなキレるヤツなら相当、怒っただろ?」

この疑問は黄泉達が思っている事だった。

「え?あぁ。それは”佑茉の話を聞いたら元の所に帰してくれるってさ”って言ったんだ。そしたらアイツ、何か考えが浮かんだみたいで、大人しくなったんだよ」

まぁ、言わゆる、飴と鞭みたいなものかな、と笑った。


『わーったよ、聞くから。そんだけだぞ。てめぇの話、聞いたからな』


確か、拓真はこう言っていた気がする。

最後の文は、リヒトの言葉と繋げれば、合点がいく。

あれはそう言う意味だったらしい。

「あぁやって、交渉を成立させるには、相手の事も考える事が大切って感じかな。相手に利益と思わせて、…でも、自分の思惑通りにする。…父さんを見て散々、感じたよ」

父さんとはここではリヒトの父の方である。

(やはりこの子は、冷静に物事を判断できる子ね)

と黄泉は思った。

これから、その能力はたくさんの事に役立っていくだろう。

でも、今はそんな事より。

「皆!お疲れ様会をしましょ。リヒトの入社祝いも込めて」

黄泉は笑顔で面々に話しかける。

陽と月はまた喧嘩が始まったのか、揉み合いになっていたが、黄泉の声に顔を向ける。

リヒトはそれを苦笑いで見つめていた。

「良いですね!」

「へっちゃんと肉も付けろよ?」

「そうですね。…ありがとうございます」

それぞれ嬉しそうにしている。

「何を作ろうかしら?」

「はぁ?肉一択だろ!カレーもな!」

「黄泉さん、僕も手伝います」

カフェに賑やかな声が広がる。

リヒトはカフェを見渡す。

キッチンで料理の準備をする黄泉。

黄泉のお手伝いをする月。

口だけ達者に手を殆ど動かさない陽。

優しい職員に、明るい雰囲気の職場。

最高に楽しい職場だ。

リヒトは改めて、ここで働けて本当に良かったと心から思うのだった。

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