第25話

第13話:小さなお客様 前編


カランと音が鳴る。

お客様が来た合図だ。

リヒトはテーブルを拭く手を止め、入って来たお客様に挨拶をする。

「いらっしゃーー」

いませ、と言いかけてリヒトはビシッと止まった。

リヒトが布巾を持ったままドアの方を見て固まっている姿を見て、陽と月もドアを見る。

「あぁ?」

「わぁ…これは、また…」

ドアの前には、まだ幼い少女が立っていた。

茶色がかったボブヘアに黒色の目。

白色の半袖のワンピースを着ているが、彼女は全体的に白く、細いのでダボダボとしている。

そして、ワンピースと言うよりは少し大きめのシャツを着ているようだった。

所々アザが見えたのは気のせいだろうか。

…何と言っても、少女はまだリヒトの膝下(リヒトは身長167cm)くらいの身長で、5、6歳と見てとれた。

リヒトが驚いたのも無理はないだろう。

まだ、初日と言う事もあるが、此処は冥界だ。

カフェと言う空間でつい、忘れてしまうがあの世の狭間である事を忘れては行けない。

少女は黙りこくるリヒト達をジッと見ていたが、やがて

「…ここ、どこ?……うっうわぁぁぁん!!」

とうとう、堪えきれず泣いてしまった。

その声でハッと我に返るリヒト達。

考えて見れば当たり前である。

知らないところに、ましてやあの世に、1人で来てしまったと考えると。

しかも、幼女。

我に返ったものの、どうしたら良いか分からずリヒト達は立ち尽くす。

(陽はどうしたら良いかと言うよりは、めんどくせぇと言う感じ。)

その時、フワッとリヒト達の前を何かが通り過ぎた。

ーーー黄泉だ。

黄泉はフワリと少女の前に来るとストンとしゃがみ込んだ。

そして、目線を合わせるとポッケからハンカチを取り出した。

それを、少女の目元に当てる。

トントン、と優しく丁寧に拭く。

黄泉が来ると少女は泣くのをやめていた。

すごいな、と月は感心する。

ただ、自分は驚いて少女に何もする事ができなかった。

それなのに、この一瞬で黄泉は動いて、少女を落ち着かせた。

今、

「大丈夫よ、安心して。此処は悪い所ではないわ。……少し住む世界が違うかもしれないけど」

と少女に優しく言葉をかけている。

そして、ギュッと少女を抱きしめる。

それに、月が何やら青ざめた顔を少し、する。

「ガキもだめなのかよ…んっとに黄泉コンだな、お前」

何時も煽りまくる陽でさえ、今日は若干、と言うか、かなり引いている。

リヒトも同じ顔をしている。

そして、黄泉コンとは、シスコンやマザコンならぬ黄泉コンプレックス、通称黄泉コンである。

陽が付けたからかい言葉TOP10。

「ちっ違うよ…」

と月が訂正する間に少女は黄泉の腕の中で寝息をたてていた。

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