第4話

第4話:君と数分間のバレンタイン


君と数分間のバレンタイン


『明日一緒に帰れる??』

勇気をだして、前日に送ったLINE。

答えは、OK。

嬉しくて、ベッドの上でしばらくごろごろしていた。

明日が早く来ないかな〜と思いながら、先ほど作り終えたチョコの入った箱を見る。

ウトウトと眠気が襲う。

もう、深夜に近い時間だった。

おやすみ、と彼に言うように呟いて、目を瞑った。

今夜は良い夢を見れそうだ。


***


放課後。

部活終わり、彼と帰るタイミングを待っていた。

私と、同じ部活だからだ。

待ちに待った放課後。

絶対に帰ると、意気揚々としていた。

袋をギュッと握りしめて。

しかしーー

(なぜ帰ろうとしない!)

そんな積極的なタイプではないし(私もだけど)し、友達にも公表してないから、あまりバレたくないのは分かる。

だけど…

(今日はバレンタインだぞ!?恋人達の少ないイベントだぞ!)

誘おうとしたし、アイコンタクトもしたけれど、帰る気配がない。

後輩の仕事が終わるのを待っているのだろうか。

事情を知らない友達は「なぜ帰らないのか?」と言う疑問の顔を浮かべている。

彼の方にも、帰ろうと思っているのだろう、友達が隣にいた。

これでは、一向に帰れる気配がしない。

(もう!これ以上は待てない!ばか!)

少し理不尽に怒りながら、千夏は友達に帰ろう、と言って部室を出た。

「…ばかやろう」

少し拗ねたように頬を膨らませながら。


(…一緒に帰れなかったけど、さすがにチョコは渡したい…)

駅に着き、1度冷静になって考えてみる。

このまま何もアクションを起こさなければ、せっかく作ったのに渡せずじまいだ。

そんなの、あんまりである。

LINEしてみよう…

怒っている…と言うか、ムカついている、と言うことを分からせたかったので、拗ねたようなスタンプを送ってみる。

2、3分して返信が返ってきた。

ぺこぺこと謝っている、スタンプ。

もう一度、同じスタンプでスタ連した。

…2回だけ。

そうしたら、?マークのスタンプが返ってきた。

怒ってることが分からないのか!君は!

それで、いつもは使わない敬語で聞いてみる。

『いつ受け取れますか?』

『いつにする?』

だから、君に聞いてるんでしょって!

『颯斗が決めてください』

あ、颯斗は彼の名前ね。

『電車で受け取ろうか?』

!受け取る気はあるみたい。

『そうします』

精一杯起こった風のLINEをして、ちょうど電車が来たので乗った。

席に座って、またもや冷静になる。

私、だめだな〜と。

急に落ち込むことはよくある事だった。

脳内1人反省会も、慣れたものだ。

自分は、しょうがないことでも、相手のせいみたいな言い方をしてしまうことを自負している。

全部相手が悪いわけじゃないのに、『あなたがああしてくれなかったから』、『あなたが行動してくれないから』。

そう言ったわけでもないが、そう言う意味合いで言ってしまう。

私の、嫌いなところだ。

彼は気づいてるのかな。

知ってて何も言わないなら、なんて優しいのだろう。

そう言うことろが好きなのだが。

(…会ったら謝らなきゃなー…)

友達が駅に降りたら、こっちに来る話になっている。

色々考えを巡らせながら、静かに目を閉じた。

人の気配がした。

目を開けると、起きた、と言わんばかりの顔をした彼がいた。

それだけで、モヤモヤしていた心もムカついていた気持ちも晴れる。

思ったより寝ていたらしい。

友達は帰ったようだ。

後でLINEせねば。

「ごめんね」

なにが、と言わずとも分かる。

帰れなかったことだろう。

「…ううん、こっちこそ。…それより、はいれ!」

目の前にいる彼にチョコを差し出す。

「ありがとう」

チョコと一緒に入っているメッセージを見ながら、律儀だね、と彼は笑った。

さっきまで怒ってたのに、こうして彼と話しているだけで許せてしまう。

ちゃんと目の前で怒れなくちゃいけないんだけどな〜と苦笑いを浮かべながら。

その後は、他愛もない話をした。

数日後の半年記念日はどこに行こう、とか。

その前にテスト頑張らなきゃね、とか。

彼の降りる1駅分の、数分間。

私達は恋人としての時を過ごした。


***


帰り。

LINEが入ってきていた。

『ありがとう〜』

そして、

『좋아해』

すぐに、メッセージの返しだと気づいた。

メッセージには、小さく韓国語でも、書いていたのだった。

私も調べて書くくらい、韓国語は知らないので、コピーして彼が送った文章を訳してみる。

そこに出てきたのは。

『好きだよ』

初めて、彼がはっきり言ってくれた言葉。

今日のことが全部吹き飛ぶくらい、嬉しかった。

思わず道端で飛び跳ねたくらい。

この返事はなんて返そう、そう思いながら帰路に着いた。

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