第25話

僕たちは職員室の角で唯一喫煙ブースになっている一角へ移動した。昔は……それこそ何十年と前では職員室の自分のデスクでタバコを吹かせることなど特別な光景じゃなかったのに、最近はどこもかしこも禁煙ブームときている。愛煙者には肩身が狭い。



今は喫煙ブースに僕らしかいない。



職員室自体も、部活動の顧問をやってる先生たちが多いせいか閑散としていた。



「今月になって三件目」とまこはタバコの煙を口からも鼻からも吐き出しながらメガネの奥の目を細めた。



「ああ、生徒からの告白?モテる男は大変だね」僕は思わず苦笑い。



「ガキに興味はねぇんだよ、俺ぁ。俺の好みは年上の清楚系」



居るのか?まこに釣り合う年上の清楚系って……と、また僕は苦笑い。



まぁ俺様で我儘な所があるまこには手綱を引いてくれる年上が合うかもしれないが…



と考えると、心臓の奥の奥の方で聞いた覚えのない音が響いた。





「で?どうよ、そっちは。白紙の答案用紙の問題は解決した?」




早々に一本を灰にしたまこはまた一本タバコを取り出しながら、聞いてきた。



「ん。まだ……」



僕もジャケットの胸ポケットから一本取り出すと、口にくわえる。



「あんま考え込むなよ。お前の悪い癖だ」



まこはそう言ってタバコに火を灯した。



「分かってるけど……」



僕は乱暴にライターを押したが、火は着火しなかった。



2度3度とカチカチ押すが、炎は出てこない。



ライターまで、僕を拒んでいるように思えた。





「分かってないよ」





ふいにまこが口を開いた。少し苛々したような荒い口調だった。



そして、僕の顔をぐいと両側から挟みこむ。



そのまま顔を引き寄せられた。






僕の心臓が、ドキリと派手な音を立てた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る